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和ごよみ短編集

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今年の手帳は六輝と節気の記載があるものでした。
声には出しませんでしたが、たしかに『小雪』とありました。読み方を知って少しだけ得したような嬉しい気持ちになりました。
「やっぱり少し雪がちらついたのも 小雪の時期だからですね」
わたしは、少しだけわかった気がして言いました。
それを聞いたおかみさんの様子が困っているようでした。
「お嬢さん、もしかして…」
すると、隣にどかっと常連ですという雰囲気のおじさんが横から口をはさんできました。
「ねぇちゃん、小雪ってのはな、俺の昔のこれの名前でな」と小指を立てて見せました。
「これ、カンさん。くだらないことお言いでないよ」
「はは、すいません。でな、雪が少ないっていうことでな。寒さもまんだ厳しくないし、本格的な雪が降る時期は、もうこちょっと後の事で、雨も降ったりやんだり、時雨れるって頃のことだわな。で、北のほうから初雪だよぉってなるわけさ」
「まったく、カンさんの言葉は何処の生まれなのか、今頃の天気と同じだねぇ」
豪快に笑うおじさんとおかみさんの会話を きっとわたしは苦笑とも困った顔ともいえない様子で見ていたにちがいありません。

「ごちそうさま。美味しかったです」
わたしは、ありがたい食事をすることができた満足感で心もお腹も満たされました。
お勘定を済ませると おかみさんがひと包みの小さな封筒を渡してくれました。
「これは何ですか?」
「今年収穫された稲穂ですよ。旅のお守り代わりにお持ちください」
「あ、ありがとうございます」
おかみさんに 此処はお勧めという場所を教えてもらい店を出ました。

紅葉の秋には遅れたけれど、冬の始まりに出会えたように思いました。
またいつか この街を訪れることがあったら、この季節がいいな。なんて思いました。
それはきっと、わたしのこの頃の時雨まじりの気持ちが癒されていくように感じたからでしょう。わたしの住む街にもやがて訪れる冬を楽しく過ごせるような気がして……。

ひゅるり〜 北風が囁く……




    ― 了 ―



作品名:和ごよみ短編集 作家名:甜茶