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和ごよみ短編集

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ホームに流れるアナウンスは、わたしの待つ列車のお知らせ。
いまかいまかと列車の姿が見えるのをホームの先に確かめる。
まるで子どものようです。
チケットで列車の座席を確かめて、ゆっくりとホームに入ってきた列車が停車する。
その地面の印字とずれていない乗車口に妙に感動していました。

どれくらい列車に揺られたでしょう。着いた町は空の色から違っていました。
曇り空というには明るく見えましたが、青みのある雲が一面に広がって空を探すのは難しそうでした。目的にしていた紅葉は とても深い赤や黄色に山を染めていました。
しかし、間近に見る木々は既に残す葉は数えるほどで 骨組のような枝が妙に空に浮かんで見えました。
見上げるわたしの目の前をふわりとちらついたものに 思わず掌を向けました。
「雪? え、初雪ぃ?」
コートを羽織っているとはいえ、頬に感じる寒さは、雪を見るほど冷えているようには思いませんでした。さきほど見たことが嘘だったのかと思えてしまうほど 次に降りてくる雪は待っていてもありませんでした。
 
駅から何処へ向かうにしても、早朝からの空腹はそろそろ限界そうです。
わたしは、駅にあった無料のパンフレットに紹介されていた店へ行ってみました。
お昼時を少し回ったところ、街であれば何処からか湧いてくるように人が飲食店に集まってきます。待たされることなど 日常では当たり前のことと覚悟しています。
せっかく訪れた地です。地元のお料理が食べられそうな店を探しました。道ゆく奥さまらしい女性に訊いて 一軒教えて貰うとそこへ行ってみました。

店先には日に焼けた暖簾がかかったお店でした。
『お昼どきの献立』と書かれたメニューの立て看板が 一人旅にそそる雰囲気です。
内心不安と照れくささにどきどきと鼓動を感じながら、その引き戸を開けました。
「いらっしゃいませ」
やんわりと迎えてくれた声の主は、此処のおかみさんという感じの女性。母親を思わせる風貌に懐かしさと温かさを感じました。
「おひとり?」
「はい」
「遠方から?」
「ってほどでもないですけれど、紅葉を見に」
「そう。少し遅かったかしらねぇ」
「そうみたいです。雪が降ってきて驚きました。さすがに寒いですね」
「まあどうぞ。こちらの席に。はい、こちらが献立です」
わたしは、普段なかなか部屋で作らない焼き魚の定食を頼みました。
作品名:和ごよみ短編集 作家名:甜茶