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和ごよみ短編集

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同じように見える落ち葉の中で 目に留まった一枚の葉を摘み上げ、柔らかくなった陽射しにかざしてみました。その視線の先に見えた近くの木を見上げました。葉を落とした木々は、もの寂しい秋の雰囲気が漂いますが その木はまだ葉をたくさん残していて暖かく待っていてくれたように感じました。
頬に冷たい風を感じながら その木を見上げていると 数羽の鳥たちが上空を通り過ぎました。たぶん暖かなところへ旅立っていく途中なのでしょう。きっとこの原っぱの何処其処でも生きものたちが冬支度をしていることでしょう。

寒い冬を過ごすために。
暖かな春を待つために。 
 
音をひそめ、雨とはならない露たちを ぎゅっと結んで霜となり降り始める。
この落ち葉を朽ちらせ養分に変えて 新しいものへの糧となる。

「さてと、リセットできた」
落ち葉を一枚手帳に挿み、その原っぱをあとにしました。
帰りの階段を軽やかな足取り降りはじめた時でした。濡れて階段に貼りついていた落ち葉で足元を滑らせてしまったのです。僅かな段差とはいえ階段は階段。数段踏み外して座り込みました。人目はなさそうとほっとしたものの 立ち上がると上着の裾とスカートの腰の辺りは汚れ 落ち葉まで貼りついていました。
「大丈夫ですか?」の声に振り返ると人影。
急に恥ずかしくなって俯いてしまいました。
「落ち葉が濡れて 滑りやすいんですよね。ほら僕も」
顏も見られず、いっしょに階段を降りる足音が徐々に重なり鼓動のように感じました。

まだ始まらないけれど そんな予感。
今は静かにこの階段を降りよう。また転んだら恥ずかしいもの。
「わっ、滑った!」
「え、大丈夫ですか?」
思わず声をかけてしまったその人と取り合った手の温もりが、まだ遠い遠いこころに届くまで時間は流れていくのでしょうか。

ゆっくりと 静かにやさしく……




     ― 了 ―



作品名:和ごよみ短編集 作家名:甜茶