小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

和ごよみ短編集

INDEX|53ページ/84ページ|

次のページ前のページ
 

《其の24》『かさね』





秋草が揺れる。
色取月(いろどりづき)の異名も納得がいく風景が広がる。
月の名も夜長や豊かな稲穂、菊や紅葉と秋の彩りのように 昔から多く伝えられている。

道の脇には、燃える色の曼珠沙華が咲く。花言葉の「悲しき思い出」と「情熱」は気持ちの裏と表のように重なる。
儚げなほっそりとした茎の先に花びらを広げるコスモスも 宇宙の意を持つロマンチックな風情の可憐な花。互いに重なり揺れてその中心の筒状花が黄色い星のように瞬いている。
幾重にも花びらを開く菊花は この季節の主役のように凛と立ち、花はこんもりたわわに気品を感じる。
 
異国から伝わる縁起がよいとされる陽数(奇数)のもっとも大きな『九』の重なる九月九日を
重陽の節句(ちょうようのせっく)とし、丹精込め育てた菊を愛で、菊花の宴を行ったという遠い昔の世から変わらぬことは人々の長寿と無病息災を願うこと。
庶民の中にも お九日(おくんち)として秋の収穫と合わせて祝われる。

尖り重なった棘に守られ実った栗の実は、その厚い殻の中で自然の優しさを育んでいる。
ほっこりとした食感とほのかな甘みは、暑さに疲れた体を優しく回復させてくれる。

古の時を越えてなお重なり合う思いは 歳を重ねた人生の先輩を敬い祝う。
としより扱いを嫌うご年配も、この日ばかりは和やかに笑って欲しい。若いものにとっては未到の域、生きてこそその年齢に到達できるのだから、容易いことではない。
だから還暦を過ぎてからは、十年と云わず区切りの歳を祝うのです。
そして、その中にも……
「七」を三つ重ねた書体が七十七に読めると喜寿の祝い。
傘のように重なった八十の傘寿の祝い。
単に文字を重ねできた「八」「十」「一」で八十一の半寿の祝い。
人生も実りの米。「八」「十」「八」で八十八の米寿の祝い。
あらま、略字も有りの「九」「十」で九十の卒寿の祝い。
これまた なぞなぞ遊びの「百」引く「一」で「白」で九十九の白寿の祝い。
重なりになっていないのも またお愛嬌なこと。

収穫を感謝する。
重なるように連なる提灯の明かりが揺れる。
神輿を担ぐ男衆の心意気と肩が重なり、勢いを感じる。その勢いで神輿を振り災厄を祓うと神様が喜ぶとか、なんとも荒々しくやんちゃな印象も重ねてしまう秋祭り。
春に呼び込んだ田の神は、その役目を終えて人里から離れて山の神となる。そのために実りの収穫に感謝し、田の神を送るのが秋祭りだ。

幾つもの思いや願い、人の重ねてきた繋がりをこれからも守り続けていかなくてはと、秋はしみじみ…… 
言葉も重ねて宵好い酔い。

じゅうじゅう かさねて……




    ― 了 ―



作品名:和ごよみ短編集 作家名:甜茶