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和ごよみ短編集

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《其の19》『しのぐ』




 
「あっついよぉー」
「仕方ないでしょ、夏なんだもの」
「だって尋常な暑さじゃ ないっしょ」
「あら、そんな暑さだったかしら?」
「え?」

うちの母は、―あ、ワタシを産んだと言い張るおんな親、体よく云えば、ワタクシの母親… まあどんなもんであれ、母なのだ― 何かにつけて 言葉をややこしくするのが得意というか好きというか 面倒くさくこんがらがらせて 長く会話を引っぱる。
べつに 家族に冷たくされているとか、生い立ちの途中で とっ、、、ても寂しい思いをしてきたとかではないのだけど、こと 子どもと関わるのが楽しいようで、口火が灯るとガスバーナーのように燃え盛り なかなか消えない。まったく熱い人だ。
かといって、この母の母親、ワタシの大好きなお祖母ちゃんは、水のごとく清らかで 静かな趣のある流暢な語り方をする人なのに、とんびが鷹に拾われたのか、みにくいあひるのこは実は白鳥ではなく、白ペンキをかぶった鴨だったかもと思うくらい。
ぁーこれだ。だんだんワタシも洗脳されてしまってきたぁー と思う今日この頃。

「この暑さ、どう対処しましょかね」
「あつぅー、暑、暑ぅ… 幾つ暑けりゃいいのぉ」
「あっらぁー、ずいぶん察しが良くなったわね、えらい!アルミサッシはミツ和」
「ガラガラガラ それシャッターだから、それにミツ和じゃないし、はい、閉まりました」

ぁーこのまま 巻き込まれていきそうだ。なんとか脱しないと、ともがくワタシ。
「どう対処で 大きく暑い大暑でしょ。それに、始めの ないっしょに暑が付いて、しましょにも暑が付いて。もう暑さのオンパレードね。どうし……」
「もういいってば。『あ、しょ』って云わせないからね」
「あら残念。もう少しで残暑。ってね」
まったく、どこまで続くのと切り時に迷うのですが、こんな時間がワタシは好きなのかもしれません。水道の栓を閉め、母は冷蔵庫を開けたり閉めたり。家事の手を休めて麦茶を入れたコップを二つ持って 母がテーブルのワタシの前に座った。
「どっこいしょ、はい完結!」
やられた。
「手ぐらいタオルで拭いたらどう?」
「だって、だってぇー、早くお茶を入れてあげたかったんだものぉ。ね」
今度は、甘えん坊な口調だ。

まあ、思えばワタシのおもちゃは 母だったかもしれない。ぬいぐるみは喋るし、おやつは物語へと変わる。言葉もそうだけれど、母の頬を摘まんでは 百面相ならぬ変顔はスライムよりも面白くクニュクニュしたり、何でも作る母の手は魔法の手だった。

作品名:和ごよみ短編集 作家名:甜茶