和ごよみ短編集
《其の18》『あまね』
まったく気だるい朝だ。
部屋の暗い窓にかかるカーテンを開ける気もしない。外から聞こえる音で溜息が出る。
部屋の隣のガレージの屋根にあたる貼りつくような不透明な音。わかりやすい、雨降りだ。
雨にもいろいろな音とにおいがある。そのすべてを表現するには言葉が足りない。自身の中に満ちてこない。ジレンマに似た感情ばかりでなんの言葉も添えられないのが残念で悔しいが、そのときどきに雨を見る者、触れる?濡れる者は、みな素晴らしい詩人のようになっているんじゃないだろうか。
おいおい。どうしたんだ……
そういう僕自身が詩人きどりじゃないのか? 先日読みに入ったSNSのしっとりいい感じの詩にこころの澱みでも洗い流されたのかな。まったく傑作だ。
――ああ、そろそろ起きないとなぁ……
朝の時間の流れは、それぞれに埋め込まれた時計の速さじゃないだろうか。
余裕を持って行動できる人。時間刻みで事のできる人。時計の針でケツでも刺されないと行動できない人。さまざまだ。
少し前までの僕は、時計の針に体じゅうチクチクと急かされて、少々身支度が不格好でも平気で飛び出してしまうヤツだった。
なんせ少しでも寝ないと勿体ない。夜更かししている分をずれ込んで寝坊しているだけだが、目覚まし時計のセットだけは忘れないところが自慢だ。まったく誰も評価はしてくれないが、まあいいか。
朝食は、かぁーちゃんの言いつけどおり「朝は何かお腹に入れて行きなさいよ」をひとり暮らしの今も律儀に守っている。まったくぅ、僕って案外真面目だな。
歯磨きして、着替えて、寝癖瞬間解消のスプレーかけて手櫛でちょちょい。脱いだ服は…まあTシャツくらいだが ベッドの上にポイッと。というのも以前に暗い部屋に帰ってきて、脚を絡めてこけたことがあってからそうしている。まったく誰の所為だよ。
そんなこんなで部屋から出かけて 駅への道もただまっしぐら。まわりのことなどかまっちゃいられない。まったく… まあ、これはこれでいいか。