和ごよみ短編集
《其の15》『いたる』
ぼくは、ずっと思ってきた。
本当は、ぼくなんていなくてもいいんじゃないかって……
そして、この日はいつもより哀しくなるんだ。
ぼくのことなど忘れてしまっているかのようにかんじてしまう。
「今日はきみの勝ちだね。あいつが味方じゃ 僕にはどうしようもないさ」
「まあね。でも大切な成長の時期だからね、頑張るよ」
「緑が揺れてるね。みんな嬉しそうだ」
「ボク、いっぱい届けられるといいなぁ お天道様の輝き」
「僕は、きみの番が終わるまで ひっそり待ってるよ」
そうなんだ。あのこたちは、いつだって日の長さを分け合ってる。
ぼくは、そのあい間に入れてもらっているけど、本当はなんなのか、わからない。
「何言ってるの?アナタがいるから 誰もが気持ちよく目覚めるのに」
「そうだよ。僕がゆっくり眠れるのも おまえがしらじらと明けてくるおかげさ」
「そうだよ。いきなりボクになったら みんな大慌てになるよ。遅刻だぁ、とかね」
そうなの? ぼく。ぼく、ぼく……
ぼくを入れて 三等分。ごはんの時間の区分かな。思いつかないや……
太陽の出ている間として区切られた時間
日の出から日の入りまでの、「ひる」くん
日の入りから日の出までの、「よる」くん
ぼくは、その名も「あさ」
あのこたちのように おそろいの「る」はない。
けれど、太陽が昇るのを迎える素晴らしいときなんだ。
新しく 美しく 眩しいその姿を これからもずっとお迎えしよう。
「頼むね。あなたが迎えてくれるから、ボクはあるのだから」
「頼むよ。おまえが忘れないでいてくれるから、僕になれるのだから」
「わかった。ぼくは」
「だからさ、ひるくん 今日はちょっと長めに頑張ってくれよな」
「任せておいて。しっかり明るさ保って、いっぱいお昼を楽しんでもらうね」
あれ…
やっぱり ぼく。話に入っていけないけど ひるよるあさひるよるあさ……繋いでいくね。
『素的なあさね』『あさだよ。おはよう』誰かが、思ってくれればいい。
夏、至る。どんな日でも ぼくは、お日様を迎える役目さ。
とうとうと えにし んぐ……
― 了 ―