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和ごよみ短編集

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《其の7》『まいる』





空が青く晴れ渡り、陽射しが柔らかい。
その青さに花を咲かせた木々が空に浮かぶように見える。
大地にも緑の草が活気をみせ、花は寄り添い、虫が戯れがている。

うららかな春。

その名を聞くだけでこころに暖かな空間が生まれるような…… そんな季節。
楽しむように青い空を飛ぶ鳥たち。
飛んでくるもの 去っていくもの ここで生まれ 羽試しをするもの みな美しい様だ。

『あの、そろそろ宜しい?』
誰かに囁かれたような気がした。といってもまわりに見あたらない。
「だぁれかいるんですかぁ」
ひとり言です。聞かれたら恥ずかしいです。でも気になって声にしてみました。
『あのね、お祝いなの』
返事など返ってこないと思っていたので ぞわぞわっと体に寒気が走ります。
「だ、だれよ。ど、どこにいるのよ」

うたかたの夢。

そこでおもいっきり手を振りかざし、わたしは、目覚まし時計のボタンを押した。
いつもならば、上と下の瞼が未練たらたら いつまでもくっつきあっているのに 今朝はぱっちり別れた。わたしは目覚めた。可笑しな夢を断ち切ったのです。
「おはよう!」
誰に言うわけではなく、はっきりしゃっきり言葉が出てきた。
「おはようございます」
わたしの驚きは、もう一度夢の中に引き返しそうでした。
「これは夢。も一度、ちゃんと目覚めなきゃ」
何度まばたきしても、瞼をぎゅうっと瞑ってみても わたしは目覚めている。
では、どうしたことか?
「はじめまして。シャカです。本日は花祭りなの」
「花祭り? って、わたしったら なに普通に聞き返しているのかしら」
その実体が見えるように わたしの空想として頭の中にくっついている映像は、修学旅行でいった寺院のご本尊に鎮座していたクルクルカール(あ、これは仏像ね)夜会巻きのように髪を纏めたお釈迦様のお姿です。
「あなた 誰?」
「シャカです」
「あ、シャカさん。今日は何か?」
「ええ、わたくしの胸の内、お話を聞いて欲しくてやって参りました」
「参りましたって…… まいったなぁ」

部屋で そうこう独り芝居をしているわたしに 階段下から母親が少々大きな声で何か言っている。良く聞こえないので わたしは現状維持のまま、摺り足で部屋のドアまで行くと少し開けた。
「え、なぁに?」
「ちょっと出かけて来るわね」
「どこに?」
「お寺に お参りよ。ほら、毎年のあれよ。あと頼んだわよ」
「うん。いってらっしゃい」
わたしは、ドアを閉めて、こちらの現実に戻った。

作品名:和ごよみ短編集 作家名:甜茶