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和ごよみ短編集

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「ごめんくださぁい。こんにちは。隣の…」
言いかけた時、引き戸が開き、秋人の母親が顔を出した。
「はぁい。まあ 千春ちゃん」
「こんにちは。お婆ちゃんが これを届けてというので…」
「牡丹餅ね。いっつもお婆ちゃんが作って持って来てくれるの。美味しくって、小母さん楽しみなの。千春ちゃんは 綺麗なお嬢さんになって、あの子に会った?」
「はい。途中で秋人君に拾って貰いました」
「そうなの? あの子何にも言わないから。秋人。秋人!千春ちゃん来てるわよぉ」
家の奥から秋人が出てくるんじゃないかと 千春は鼓動が早くなりそうで 拳を握ってじっと耐えた。
「あの子ったら 照れてるのかしら」
「いえ、私はこれを届けに来ただけですから。じゃあ失礼します」
千春は、秋人の母に会釈すると 玄関を出た。一度閉まった戸が開いて秋人が出てきた。
「小春、時間あるか?」
「うん。あ、ねぇどこ行くの?って小春じゃないってば…」
秋人に手を掴まれて 千春は小走りに引っ張られながら訊いた。

着いたところは、子どもの頃、一緒に遊んだ場所。野原のような場所で 大きな石が地面から剥き出している上に登った。
太陽がまっすぐ西に沈むのが見えた。
「間に合ったかな」
「綺麗…。よく此処で見たね、夕陽。でも この石ってこんなに低かったかなぁ」
「さぁ…? 俺も久し振りに来たから」
「そうなんだぁ。彼女でも連れて来てるのかと(くすっ)」
「バカ言うな!おらんわ」
千春は、自分の訊いたことと秋人の返事に どきっとした。少し下唇を噛んで俯いた。
「おとといは、此処を真っ直ぐ太陽が過ぎたんだな」
「おととい? って春分の日ね。昼と夜が同じくらいになったのね」
「これから昼が長くなって 暖かくなって 野菜もいっぱいできる季節だ」
「秋人君、頭良かったから進学してると思った」
「良かないよ。いつのこと言ってるんだ?」
「保育園」
「は? それに おやじが腰を壊しちまったから、畑、ほかっておけないしな」
「おやつに 塩持って 胡瓜食べに行ったね。おいしかったの 覚えているよ」
ふたりで石に腰を下し、夕陽が半分くらい沈んでいくのを見ていた。

作品名:和ごよみ短編集 作家名:甜茶