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和ごよみ短編集

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「なぁ、彼氏いる?」
「なに、急に」
「千春に 俺の作った胡瓜食わせたいな。そんくらいなら 彼氏だって怒らんだろ?」
「胡瓜食べて 怒る彼なんていないよ」
夕陽は、光を輝かせていたが もう薄っぺらく姿を見せているだけだった。
「もう こっちには戻って来ないんだよな」
「うん、たぶん。だって家がないもの」
「じゃあ 胡瓜できたら送る。旨かったら 秋分に来いよ」
「ううん。……塩持って 食べに来る」
ふたりの顔が 徐々に暗く薄れていった。
「おい、帰るぞ。気を付けて降りろよ」
秋人は、ぶっきらぼうな言い方をしたが、手を差し伸べ、千春はそれに掴まった。

翌日、千春は両親と街に帰ることにした。
祖母は、少し寂しそうな様子を見せたが、千春に牡丹餅を持たせ微笑んだ。
「お婆ちゃん、また来るね。もうひとりだって来られるもの」
「じゃあ 待ってるね。気を付けて」
庭先に停めてあった父親の車に乗りかけると 呼び止められた。
「千春」
「お父さん、ちょっと待ってて」
秋人が、手の中に持っていたのは、小さなビニール製の鉢に植えられたすみれだった。
「地神様が 渡して来いってさ。なんてな」
「いい神様ね。きっと美味しい野菜がいっぱいできると思う。秋人、ありがとう」
「じゃあな。 あれ…今、俺の事、呼び捨てにした?」
「さぁ?」
千春は、車に乗り、祖母と秋人に見送られて走り去った。
「また、三人の日に戻るね」
「え、千春 何言ってるの?」
「ううん、何でもない」
すみれの花を眺めながら、また来る日のことを楽しみに考えている千春だった。

田舎道を車は走る。春の暖かさを感じる陽射しが ガラスを眩く照らす。
本当の気持ちを知りたくて、ちょっぴり気になる乙女心が胸に咲く。

ゆらゆら ゆらり……




     ― 了 ―



作品名:和ごよみ短編集 作家名:甜茶