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和ごよみ短編集

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十五年の歳月が過ぎても、変わらず話せたことを喜んだ。それだけ 幼いふたりは同じ時間を過ごしてきたのだ。しかし千春は、親類の自分よりも祖母の様子を知っている秋人のことが不思議に感じた。何に、誰に、わからない寂しさに似たものだった。

「なんで 歩いてんだよ」
「だってぇ、バス来ないんだもの。天気もいいし 歩いてきちゃった」
秋人は、時計などしていない手首を見て、空を見上げた。お日さま時計を見るように。
「だな。乗ってく?」
秋人が 顎で示した方には 軽トラックが止まっていた。
「秋人君の愛車?」
「仕事用だ。嫌なら 歩いてけ」
「嘘、うそ。乗せてって」
千春は、秋人の軽トラックの荷台にトランクを乗せると 助手席に乗った。
「千春 覚えてないわな。さっきのこと……」
「さっき? そうそう、突然『採るな!』ってびっくりした。恐かったよ」
「あれはだな… やっぱり忘れてるよな。それか 知らないのか」
秋人は、急ぐわけでもなく、とろとろと感じる速度で車を走らせながら、千春に話した。

春分の日の頃の戊(つちのえ)の日。社日(しゃにち)と云って 生まれた土地を祀る日だ。だから、土の守護神・地神をほじくらないように 土を耕さないし、田畑にも入らないんだ。俺のじっちゃんの頃は 庭で餅ついて、土の神を祀り、春には豊作を願い、秋には収獲を感謝してたんだと。そういやぁ、小さいときに畑に入って叱られた覚えがあったけど、この仕事するようになってから知ったってくらいかな。でもさ、やっぱり、野菜とかできると嬉しいから 今は俺も信じてやってるよ。

千春は、花を摘まなくて良かったと思った。そして 知らなかった時間に秋人が おとなになったようで羨ましく感じた。

「ほら、こっから先は 歩いていけよ」
秋人は、道路と庭の境がないような場所で軽トラックを止めると、荷台からトランクを下した。
「あ、ありがとう」
千春は、もう一言 お礼や言葉をかけたかったが、人柄が大きく見える秋人を見つめることしかできなかった。
「なんだよ。土でも付いてるか?」
首からかけたタオルで額を拭いながら 秋人は軽トラックに乗って走って行った。

作品名:和ごよみ短編集 作家名:甜茶