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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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ようこそ、伊勢界トラベル&ツアーズへ!

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「はじめまして、私は石宮いずみ。京都魔界プロジェクトの主任をやっています」
 関西弁訛りで、その人は言った。
「はじめまして、伊勢界トラベルの高穂木はるかです」
 私は頭を下げた。
「高穂木さんは、京都は初めてですか?」
「はい」
「じゃあ、時間もあることだし、少し付き合ってもらえます? それとも、まず休みたい?」
「いえ、大丈夫です」
 そして連れて行かれたのが、新京極という商店街。
 祇園祭で知られる四条通から北へ伸びるアーケード。
 そこを歩きながら、錦天満宮とか蛸《たこ》薬師とか、商店街沿いにある意外なパワースポットについて教えてくれた。
 これも、今夜の心霊スポット巡りの予備知識みたいなもの?
 他意はないんだろうけど、ついつい勘繰ってしまう。
 石宮さんは外国人観光客や修学旅行生でごった返す新京極商店街を抜け、隣の寺町通へと案内してくれた。
 すぐ隣の通りなのに、こちらは静かで人通りも少ない。
 そこにある喫茶店に入る。
 事前の打ち合わせ。
 新幹線の中で、資料には一通り目は通してたけどね。
 恐いけど、仕事だし。
 ただグリーン席で高級駅弁満喫してただけじゃないよ。
 で、今夜巡る心霊スポットね。
 旧東山トンネル、将軍塚、九条山、一条戻り橋、そして清滝トンネル。
 どれも定番らしいけど、九条山だけはマイナーだと、石宮さんは教えてくれた。
 なんでも、昔の刑場の近くで、そのエリアは有数の心霊スポットなのだそうだ。
 あの……もう帰ってもいいですか?
 聞いてるだけで怖いんですけど。
「今夜はガイドの練習もしてもらうから、この文面読んでおいてね」
 話している間にすっかり打ち解けて、石宮さんが言った。
 渡されたプリントには、そのスポットの由来と体験者の証言とかが書かれていた。
 普通に怖い。
 帰りたい。
 懇願するように石宮さんを見る。
「大丈夫よ。みんな最初は緊張するものだから」
 って、そういう問題じゃないでしょ?
 今のうちにコンビニで――
 ああ、またトラウマ増えるのか……
 絶望的な気分。

 で、ツアー開始時間が来てしまったわけで。
 石宮さんと私は、集合場所の四条大橋のたもとにいた。
 河原にはカップルが等間隔に座っている。見ていて面白いほど等間隔。
 でも、集合場所がここなのも、恐怖ツアーならではだった。
 実はここ、昔の刑場。石川五右衛門が釜ゆでにされたとか、それに、かつて河原ものといわれた見世物小屋のあった場所。
 出だしからもう、恐怖醸しすぎ!
 知らない方がよかった!
「京都はね、歴史が古い分、色々と謂《いわ》れがあるの。理由は分からないけど、奈良よりもね」
 参加者が来るまでの間、石宮さんが説明してくれる。
 もういいですから。
 でも、今夜のツアー、途中から私がガイドをすることになってるらしく……
 聞きたくなくても聞かざるを得ない。
 そうこうしているうちに、ツアー参加者が集まって来た。
 石宮さんは時間5分前までに参加者の確認をした。
 全部で15名、全員集合済み。
 それだけ済ませると、橋を渡ってバスに乗り込む。
「皆さま、本日は私共伊勢界トラベル主催の“真夜中の京、最恐スポット巡り”にご参加くださいまして、ありがとうございます」
 マイクを手に取り、石宮さんが流れるように話す。「皆さまご存知のように、京都は1200年の都、それだけ多くの人々の想いが息づき、蓄積されてきた土地です。中には不遇をかこい怨念と化した魂が宿った場所も数多くあります。今回はそのうちの幾つかを、皆さまご自身で体感して頂きたく存じます」
 石宮さんは、それだけのことを何も見ずに話した。
 さすがだ。
 私なんか、紙を見ながらでも舌を噛みそう。
 バスは清水寺の近くの国道を登って、最初の目的地に向かう。
 石宮さんは、そのトンネルの由来や怪奇現象の目撃談を、さも恐ろし気に語った。
 さすがはプロだ。
 私だったら棒読みになる。
 で、旧東山トンネル。
 車の往来の多い新トンネルの脇にひっそりと佇むレンガのトンネル。
 でも、予想に反して照明も多くて、思ったよりも怖いという印象はない。
 一人ずつ、あるいはグループごとに通ってもらうということだった。
 でも、最初にそれをするのが私。
 ――って、私!?
「では、まず今回は新人の研修もありますので、こちらの高穂木さんに最初に行ってもらいます」
 って、そんなこと聞いてないし!
 うあ、ごめんなさい。あんまり怖くないって言ったけど、嘘です! 怖いです!
「さあ、向こうまで行くだけだから」
 石宮さんが背中を押す。
 私は恐る恐る前に進む。
 仕事、仕事……
 心の中で呟きながら。
 レンガ造りの狭いトンネル。蛍光灯の明かりがあるから、外よりはずっと明るいけど。
 けど……
 それが、余計に怖い。
 トンネルの入り口には車止めがあって、歩きか自転車くらいしか通れないようになってる。
 それに、誰も歩いてない。
 仕事……仕事……
 私は呪文のように唱えながら、先へ進む。
 そんなに長いトンネルじゃないはずなのに、出口が遠い。
 出口の先は闇。向こうに出ても、もっと怖かったらどうしよう。
 不意に頭に何かが落ちてくる。
 冷たい!
 思わず悲鳴を上げる。
 ヤバい、またちびりそう!
「高穂木さん!」
 入口の方から石宮さんが呼ぶ。
「あ、はい!」
「大丈夫!?」
「だ、大丈夫です」
 頭頂部を触ると、かすかに濡れている。
 なんだ、滴が落ちて来ただけなんだ。
 微妙に濡れた地面を踏みしめながら、なんとか出口にまで辿り着いた。
 緊張が解けて、それまで溜め込んでいた息を一気に吐き出す。
 でも……
 思ったより楽勝だったかも。
 ちょっとびっくりしたけど。
 あはは、心霊スポットなんて、所詮こんなもんよ!
 でも、ツアー参加者たちは、私が必要以上に怖がったからか、みな恐怖の表情を浮かべながらトンネルを出て来た。
 これが、石宮さんの狙い?
 私が怖がりって知ってて、効果出したの?
 ちょっとこれ、酷いよ。帰ったら社長に手当増やしてもらうから。
 とまあ、一つ目のスポットは何事もなくこなし、次の将軍塚へ向かう。
 途中、京都最大の斎場の近くを通り、納骨された以外の遺灰の埋め立て地とか、そんな場所を通過しながら。
 うん、ここは大丈夫。
 普通に夜景がきれいな展望台。
 それが、将軍塚の印象。
 話によると、京を守るための巨大な将軍像が埋まっているのだとか。いわくも聞いたけど、そんなに怖くなかった。
 結構楽勝かも。
 私は安心した。
 うん、それが早合点だったってのは、すぐに思い知らされたんだ。
 何事も、そんなに甘くはないんだって。
 次は九条山《くじょうやま》。バスは一旦その場所を通り過ぎる。
 坂道を下り、その先の蹴上《けあげ》ってところまで行った。
 大きなホテルもあって、怖い場所でもなさそう。
「では、ここから山越えをします」
 石宮さんが言う。「実は、この蹴上という地名は、この峠を越えた先の刑場へ向かう囚人を蹴り上げて歩かせたことに由来しています」
 って、ひぇぇぇ! そんな怖い地名ってあるの?