短編集56(過去作品)
と感じ始めると、小田切は自分が女性っぽいことを気にしないようにすることに決めていた。
佐和子を見ていると、聡子の小学生時代を感じる。だが、距離を置こうとは思わない。相手が自分のことを分かってくれていることが安心に繋がるということを悟ったからだ。
きっと聡子と出会って話をしなければ分からなかったことだろう。
聡子は今、結婚をしていて幸せな生活を送っているということだが、そんな聡子を見ると、将来の佐和子が見えてきそうだった。
結婚の二文字が初めて頭の中にちらついた。まだ早いのだろうが、今まで付き合ってきた女性たちも心のどこかで幸せになってくれることを願っている。きっと彼女たちも小田切に対して同じことを感じているに違いない。
別れたからといって、嫌いになって別れたわけではないはずだ。お互いに成長し合える相手を探すためのステップだったのかも知れない。
自分が女性っぽくなっているのは、きっと彼女たちが小田切の中に自分の影を見つけ、イメージしてきたことが、気持ちとして通じていて、彼女たちの性格を吸収してしまったと考えるのは乱暴だろうか。
小田切は最近洗面所にいる時間が長い。
鏡を見ている時間も長いが、洗面台に溜めた水の表面を見ている時間が長い。
風もないのに、小さな波紋が均等な波を打って刻まれる。まるで木を切った断面に浮かび上がっている年輪のようだ。
そこに写っている自分の顔、波紋が通過するたびに、自分の顔が女性に見えてくるように思えてくる。
――彼女たち、幸せになってほしいな――
心からそう感じながら、佐和子の顔が水面に写るのを待っている小田切だった……。
( 完 )
作品名:短編集56(過去作品) 作家名:森本晃次