時計
「お願い……。ここにいてほしいの。たとえ……、たとえほんの少しの間だけでも……」
綾音は、知らぬ間に頷いていた。
圭子は、何をやっているんだろう。人を誘っておいて無責任な。
表情にこそ出さなかったが、この時ばかりは綾音は心底圭子を恨んだ。
「ありがとう……」
文字盤に映ったその少女の顔が、安堵したように微かに微笑む。
「何もしなくていいから……。だから、ほんの少しの間でいいから、ここにいて」
少女は繰り返した。
綾音は、圭子の所在を確かめようと後ろを振り返ろうとしたが、彼女の瞳はまるで吸いつけられたように文字盤の少女から離れなかった。
「私の名前は――、吉堀…歌苗……」