小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

時計

INDEX|28ページ/43ページ|

次のページ前のページ
 

「そんなことない! どうしたの? 歌苗さん。あなた、どうかしてるわ!」
「どうせ私はどうかしてるわよ! 綾音さんから見れば、そうでしょう! ――でも、あなたは卒業しても、私のこと忘れないでいてくれる? 私の存在を認め続ける自信はある? ねえ、私はここにしかいられないのよ。遠くにいる人のことを忘れるより、私のことを忘れてしまう方が はるかに簡単だわ。綾音さん――あなたは卒業しても、私に会いに来てくれるって、約束できるかしら?」
「何も――。なにも、そんな言い方しなくたっていいじゃない!」
 綾音は涙声になって言った。「どうして……、そんな哀しいことばっかり言うのよ……。私も、このままでいられたらどんなに嬉しいか。――でもそれが〈時間〉なんでしょう? あなたの言う〈時の流れ〉なんでしょう?」
 肩で息をしながら、綾音は両の手に力を込めた。「――時間なんて……。時間なんて、くそくらえだわ!」
「そんな……、私――」
 歌苗の瞳が揺らぐ。
「もう何も言わないで! くだらない泣き言を言うくらいなら、もう二度と私の前には現れないで!」
 綾音は息を吸い込むと、それをそのまま止めて歌苗を睨みつけた。その綾音の表情は怒りよりも、むしろ深い悲しみに満ちていた。
 薄暗い廊下を綾音は駆け出した。
「綾音さん!」
 背後から歌苗の声が追ってくる。綾音は構わず走り続けた。瞳からは大粒の涙が溢れ、後に流されて光の粒子となって薄闇の中に溶けていった。霞んだ視界のせいで、どこをどう走っているのかさえ判らなかった。
 ただ――こうして走り続けている間だけは、声を上げて泣かないで済む。
 今の綾音に判っているのは、ただそれだけだった。

作品名:時計 作家名:泉絵師 遙夏