おしゃべりさんのひとり言【全集1】
その58 ヒマワリの科学
この前ドライブしてたら、大きなヒマワリ畑を目にして、こんなことを思い出した。
僕は大学の頃、ある写真雑誌に載ったことがある。
グラビアとかそんなんじゃないよ。真面目なカメラの専門誌。
そこに僕の撮った写真が掲載されたわけでもないけど、(僕が写ってる)って、後輩が教えてくれた。
それはヒマワリ畑で、スケッチブックを広げて写生している姿だった。
横に座る女子の黒のタンクトップに黄色い帽子をかぶった後姿が、ヒマワリ畑とマッチしたみたいで、そんな風景写真として評価を得たような感じの投稿作品だったと思う。
僕はその時の彼女との会話を、今でもよく覚えている。
「あれ? ヒマワリの顔、太陽の方を向いてないよ」
彼女がそう言った。
『ヒマワリ』を、漢字で書くと『向日葵』
太陽に向いて咲くイメージがあるからこう言ったのだ。
「そうだな。全部、東に向いてるな」
その畑にはおそらく数千本のヒマワリが咲いていたけど、ほとんど同じ方向を向いている。
僕は方向感覚がいいので、今でもそれが東向きだったって判る。
でも時間は昼過ぎ、太陽は南から西に移動し始めたころだった。
「これから太陽を追っかけるのかな?」
あの時はそれくらいの疑問にしか感じてなかったけど、この前のドライブ中に妻が、
「ヒマワリの花って、太陽の方を向いてないね」
同じことを言って、今更ながら不思議になった。
「え? なんでだ?」
「よく考えたら、太陽の動きに合わせて花が向きを変えるって、すごい話じゃない?」
「でも待てよ。それってただの噂で、本当は向きなんか変えないんじゃないか?」
「そんなことないでしょ。ヒマワリは太陽に向かって咲くものよ」
「・・・そう咲いてないじゃない」
「・・・・・・」
「きっとそうだよ。太陽なんか無視してるよ」
「昔のヒマワリと今のヒマワリは違うのかな?」
「子供の頃のヒマワリって大きかったよな」
「うん。3メートルくらいあったと思う」
「そうだった。小学校の花壇に2階まで伸びたヒマワリがあった」
最近のヒマワリは、切り花としても使えるような小型のものが主流だ。
茎の途中から枝分かれして、5~6輪花を咲かせるのもある。
黄色だけじゃなく、茶色やグラデーションの入ったものや赤っぽいのも。
品種改良が進んで、太陽を向く性質が薄れたのかとも考えた。
家に帰ってから、ネットで調べてみると、答えは簡単に判った。
ヒマワリが太陽を追っかけるのは事実だ。
但し、花が咲く前の話。
どういうことかと言うと、茎が伸びる段階で、光の当たる反対側の細胞の方がよく生長するらしい。
これは暗闇で栽培したモヤシがよく伸びるのと同じことかな。
陰になる部分だけ伸びると、光の当たった部分と、茎の生長度合いに差が出来る。
おのずと茎が成長の遅い方に傾く。だから朝は日の出の方向、つまり東に傾くことになる。
それが日中ずっと繰り返され、常に太陽の移動に付いて行くように、傾いたまま生長して、最後は西に頭を下げることになる。
夜は生長が止まり、また朝が来ると陰になる茎の西側が伸びて、日の昇る東に傾き直すことになるんだ。
面白い。これを観察した人は、さぞや感動したことだろう。
単に傾く動作がすごいだけじゃなく、太陽のある方角に傾くってことは、広げた葉っぱも、日光をうまく浴びる角度になるってことなんだ。
自然ってすごいな。
そして花が咲く直前、茎が伸びきったら、もう動きは止まる。しかしその方角は、だいたい東向きになるらしい。
それは花の表面温度を、朝から効率的に上げるためなんだって。
そうすると虫が集まりやすいんだとか。
西向きに置いたヒマワリだと、集まる虫の数が減ってしまうんだそうだ。
そうか、そうして受粉を促してるんだ。
あれだけの数の種を作るくらいだから、自然をうまく利用してるんだな。
自然て本当に凄いな。僕も感動した。
なんか、ヒマワリを見ると元気が出る気がする。
そのことを妻に説明してやると、
「ええ~! ずっと花が動くと思ってたのに、なんか騙されてた感じ」
「よく考えたら、花が動くって説は、やっぱり変だって」
「どうして?」
「太陽を追っかけてるなら、花は昼間、南を向くだろ?」
「うん」
「それが夕方になると、段々西を向いて」
「ふむふむ」
「日が沈んだ時には、花は完全西向きになるはずだよね」
「うん。そう思ってた」
「夜中は太陽見失って、動きも止まる」
「うん。で、朝になったら?」
「ヒマワリ畑に日が昇ると、花が一斉に東を向く。ひょい!って」
「あっははははは・・・」
「これはあり得ないでしょ」
妻も納得した。
作品名:おしゃべりさんのひとり言【全集1】 作家名:亨利(ヘンリー)