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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Riptide

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 研吾は白い歯を見せて笑うと、整地が行き届いていない砂浜を見渡して、どこから手をつけるか考えを巡らせた。手伝いと言いながらも、少しずつ手を広げている。海水浴場といっても、規模はそこまで大きくないし、縄張り争いのようなものもない。しかし、今年は巻田夫妻も混ぜて、そのお手並みを拝見するつもりだった。どことなくサーファーのような恰好をしているから、見た目の違和感はないが、よそ者であることには、変わりはない。極端に粗探しをする気はないが、勝手なことをしないよう、よく見張っておく必要があった。まずは仲間入りの儀式として、昼から手伝いに来る予定になっている。村井とピンクが耳打ちをしながら自分を見ていることに気づいた研吾は、言った。
「なんだよ」
「仕事好きだねえ」
 村井がからかうように笑った。レッドも笑った。
「今の遠い目は、仕事のこと考えてたんだ?」
「そうだね」
 研吾がそう答えたとき、ピンクが防水ケースからスマートフォンを取り出して、手招きした。細長い腕を目いっぱい伸ばして四人の自撮り写真を撮ると、レッドとくすくす笑いながら立ち去って行った。
「最後のはなんだ?」
 研吾が言うと、村井は脇腹を突いた。
「お前、嫁に絞られんじゃねえの?」
「なんでだよ。今までに、人の写真にどれだけ写ってると思ってんだ」
 研吾は、まだ何もセッティングされていない砂浜に腰を下ろし、ホットサンドメーカーを握る振りをしながら、じっくりと感覚を取り戻すように、体を揺すった。
「頭の中、何が流れてるんだ」
 隣に座った村井が訊くと、研吾は邪魔が入ったようにしかめ面をした。
「ダイヤモンドヘッド」
 夏といえば、定番の曲が数えきれないほどある。しかし、研吾がかけるのは、村井も知らないような古い洋楽ばかりで、そんな定番曲の中に、時折最近のサーフミュージックを混ぜたプレイリストを作っていた。例えば、エリミネーターズやサタンズピルグリムが、ベンチャーズとディックデイルの間に挟まる。結子は『速いから、聴いてるとなんか焦る』と言ってあまり聴こうとはしないし、明弘と正人は顔を見合わせてコンマ五秒で関心を失った。
 そんな夏の良き理解者は、村井と海。そして、ピンクとレッド。
    
    
・午前十一時二十分
      
 明弘の最初の感覚は、『いや、それはヤバイ』だった。先生が背中を向けている隙に、一度プールから上がった河田が勢いよく飛び込み台を蹴ったとき、明らかにスピードが速すぎる気がしたのだ。先生の怒号が水面を揺らすよりも早く、水柱を上げる勢いで頭から水の中に飛び込み、その姿は見えなくなった。プールの底が一瞬揺れたように感じて、明弘は思わず足をひっこめた。
「河田! 大丈夫?」
 泡が引いて、水中でゆらゆらと揺れて見える河田の背中が見えた。動いていない。直感的に思った明弘は水中に潜って、その手を引っ張った。すぐ隣で大きな水柱がもう一つ上がり、水がぐらりと揺れた。先生だということに気づいたのは、二人とも引き上げられてからだった。先生は河田を叱ろうとして、目の焦点が定まっていないことに気づいてやめた。明弘は気づいた。さっき底が揺れたように感じたのは、頭をぶつけたからだ。
「頭、打ってない?」
 明弘が言うと、河田はぱちぱちと瞬きしながら首を傾げた。先生が、問題の解答を教えるように言った。
「打ってるよ、保健室行け。隅谷、ちょっと付き合ってやってくれるか?」
「はい。河田、歩ける?」
「うーん」
 河田は自分の能力がよくわかっていない様子で、明弘は定期的にその様子を伺いながら、保健室まで付き添った。
「昼からどうすんの?」
「……、行く」
「お前、泳いで大丈夫なのかよ」
 明弘は、自分には答えの分かり切っていることを、敢えて訊いた。河田は瞬きがようやく収まってきた様子で、強くうなずいた。
「大丈夫……痛って」
 河田が額を押さえると同時に、片方の鼻から血が流れ出してきて、明弘は背中を押した。
「早く行こう」
「誰も見てない? 見てないよな?」
「見てないよ!」
 河田は、鼻血を出している姿をどうしても見られたくないらしく、地面に点々と血を落としながら千鳥足で歩き、明弘が保健室のドアを開けると、保健の先生である桑原が、椅子ごと振り返るなり短く悲鳴を上げた。
「どうしたの!?」
「飛び込んで、底で頭を打ったんです」
 桑原がベッドに寝かせた河田の様子を確認している間、明弘は歩き回って壁の張り紙を読んだり、先生が使っていたパソコンのスクリーンセーバーを眺めたりしていたが、桑原がようやく落ち着きを取り戻した様子で戻ってきたときには、元の席に座っていた。
「大丈夫。でも今日は安静にしといたほうがいいね」
「海に行く約束があるんです」
「飛び込んで頭打ったんでしょ? 相手が岩だったら大変なことになるよ」
河田の代わりに怒られているように感じながら、明弘は神妙な面持ちでうなずいた。桑原は小さくため息をつくと、眉をひょいと持ち上げた。
「でも、えらいね。先生の言う通り、連れて来たんでしょ」
「底が揺れました」
「プールの?」
 明弘がうなずくと、桑原はベッドに寝かされている河田のほうをちらりと見て、力なく笑った。
「ほんっと、男子は力余りすぎだよ」
「自分でも、そう思います」
 明弘が言うと、桑原は声を上げて笑った。明弘は、自分の怪我のときも桑原先生を何度か頼っており、その度に同じことを言われ続けてきた。
「でも、今日は河田君は安静ね」
 桑原は、河田の耳にも届くように大きめの声で言ったが、明弘はそれをダメ押しするためにベッドの傍に近寄って、河田の顔を覗き込むと、言った。
「河田、今日は家でおとなしくしてなって」
「オッケー」
 河田は素直に返事をしたが、明弘はおそらく聞き入れないだろうと、半ば諦めていた。しばらくの間、学校にまつわる世間話を桑原としていたとき、チャイムが鳴った。
「あっ」
 思わず声を出した明弘は、天井を見上げた。その方向は四年生の教室を向いていて、桑原も同じように目線を動かした後、言った。
「どうしたの?」
「早く着替えないと。正人が待ってるんです」
 すでに着替えが終わっている教室に戻る直前、廊下で井原が待ちかねたように、言った
「みんな帰っちゃったよ。トイレかどっかで着替えなよ」
 井原は、明弘の着替えを小脇に抱えていて、妙に格好をつけている立ち姿だった。明弘はその様子に一瞬笑ったが、すぐ我に返ると、全速力で制服に着替えてランドセルを背負い、階段を駆け下りた。
 給水タンクの裏に回ったが、先に授業が終わったはずの、正人の姿はなかった。
作品名:Riptide 作家名:オオサカタロウ