オヤジ達の白球 61話~65話
「そうこなきゃ!」
雪は冷たいから大嫌いだと言っていた陽子が、ひょいと
助手席から降りていく。
8時間以上も降り続いている雪は、この時点ですでに20㌢を超えて居る。
しかし収まる気配はいっこうに見えてこない。
それどころかむしろ降り方が、しだいに強くなっているような気配がある。
(どこまで降り積もるのだろう・・・この雪は)
玄関へ飛び込んだ祐介の足元へ、いきなり、攻撃的な
黒い物体があらわれた。
敵意を帯びた牙がいきなり、祐介の靴下へ喰いついた。
「こら!。ユウスケ。噛んだら駄目だよ。
そのひとは、あたしの大事なお客さんだからね!」
キッチンから響いてくる陽子の声に、ユウスケが靴下を
くわえたまま振り返る。
しかし。靴下を離すつもりはないようだ。
すこしうるんだおおきな目が、どうしたものかと祐介を見上げる。
牙は肌に達していない。先制攻撃をくわえたが、本気の敵意はないようだ。
「ユウスケ。俺は敵じゃねぇ。
おまえが陽子の用心棒だということはよく知っているが、今日は
寄ってくれと
陽子の方から頼まれた。
遣らずの雪の客人ということで大目にみてくれ。よろしく頼むぜ」
意味が通じたのだろうか。
靴下を離したユウスケが、陽子の居るキッチンへ向かって駆け出していく。
犬にも『遣らずの雪』の意味が、わかるのだろうか・・・
(64)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 61話~65話 作家名:落合順平