オヤジ達の白球 61話~65話
運転席のガラスが全開で開く。
「ありがとう。助かったわ。
坂道の途中で停まってしまった瞬間から、わたし、
生きた心地がしなかったもの。
これ。2人で食べて。
亡くなった主人が大好きだった、中華まんです」
老婦人がレジ袋に入った中華まんを差し出す。
「中華まんを買うために、こんな真夜中、わざわざ下の
コンビニまで行ったのですか?」
「亡くなった主人がね、
雪が降ると中華まんをサカナにお酒を飲むの。
そんなことを思いだしたら矢も楯もたまらず、気が付いたら、
車に乗っていたのよ。
あら、あなた。亡くなった主人の若い頃に、よく似ていますねぇ。
若い頃の主人にうりふたつです。いい男ですねぇ、あなたも。うふふ」
老婦人の車が2本のわだちを残して遠ざかっていく。
祐介の手に老婦人からわたされた中華まん入りのレジ袋が、
ぶらさがっている。
時刻は深夜の2時。
「どうする、これ?」
車へ戻った祐介が、中華まん入りのレジ袋を陽子へ見せる。
「雪見酒用のつまみでしょ。
熱燗をつけるわ。この雪だもの。朝までふたりでゆっくりのみましょ」
(63)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 61話~65話 作家名:落合順平