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オヤジ達の白球 61話~65話

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 急坂は、いちど停まってしまうと厄介だ。
「押すか・・・」。祐介がドアを開けて坂道へ出る。
坂道には充分な広さがある。そのままパスして追い越していくことは簡単だ。
しかし。苦戦している車をそのまま見捨てていくのは、なぜか後味がわるい。
「押しましょうか?」祐介が運転席のガラスをノックする。

 「あら!。困り果てていたのよ。助かるわぁ~」

 半分ひらいたガラスから、老婦人の笑顔が返って来た。

 「押しますから声をかけたら、ゆっくり、アクセルをあけてください。
 タイヤが空転してしまうと、脱出が難しくなります。
 そうですね。赤ん坊をあやすようにやさしく、アクセルを
 踏み込んでください」

 押しますよと祐介が、車の背後へ回っていく。
「見捨てるわけにいかないわね。わたしも手伝うわ」
陽子が助手席から降りてくる。
2人の手が、車の後部をささえる。
「押しますよ。すこし前へ出たら、アクセルをゆっくり踏み込んでください」
祐介の声にこたえて老婦人がアクセルを踏み込む。

 2人の押す手とアクセルのタイミングが合った瞬間。
山を減らしたスノータイヤが新雪にすこしだけ食いついた。
「おっ、反応が出たぞ。タイヤが雪に食いついた!」動き出せば、
あとは早い。
2人が押す手に力をこめる。
ゆるゆる登り始めた老婦人の軽車両が、数分後、坂道の頂へ出る。