オヤジ達の白球 61話~65話
「もう一本呑む?。熱燗」
「おう。呑む。外は遣らずの雪だし、時刻はもう深夜の3時半だ。
降り籠められて、帰りたくても帰れねぇ状態だ。
焼け酒とはいわねぇがこんな状態じゃ、もう、
ひたすら呑むしかないだろう」
「なにもすることのない男と女が、バレンタインデーの未明に
焼け酒をのんでいる。
長い人生だ。
たまにはそんな夜があってもいいわよね。
じゃ、もう2~3本、まとめて熱燗をつけてこようかしら」
空の徳利をもって、陽子が立ち上がる。しかし足元がおぼつかない。
案の定。態勢を崩して前のめりになる。
「あ・・・あぶねぇ!」
身体をささえようとして立ちあがった祐介の手を、陽子が
するりとすり抜ける。
「おあいにく様。どさくさにまぎれたボデイタッチは、大火傷のもとです」
「なんだ・・・酔っていねぇのか」
「酔ってるよ。だからとっさに逃げたんだ。あんたの手からね。
なんだかややっこしいことになる前にさ」
あははと笑いながら陽子が、腰をくねらせてキッチンへ消えていく。
しかし。そのあしもとは、あきらかに酔っている。
(65)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 61話~65話 作家名:落合順平