わたしの草原
「なによ。お弁当だけは、しっかり食べられるの?」
「笑われるかな……?」
「そりゃあね」
わたしはまだ、喧噪の中に戻って行きたくはなかった。
「ね、持って来てよ」
わたしは言った。
「ここで食べるの?」
「いいじゃない。ね」
美友紀は肩をすくめると。保健室を出て行った。
保険の先生は食堂にでも行っているのか、いまはだれもいなかった。
日中の穏やかな陽射しが、南向きの窓から柔らかく差し込んでくる。
ついに、わたしは一歩を踏み出した。
でも、それによって、なにがどう変わったのか、具体的なことはまだわからなかった。ただ、いまわかることといえば、あの一歩はわたしにとって、とても重大ななにかを暗示しているということだけだった。
このことを、わたしは美友紀には言わなかった。なぜか、話すことがためらわれたからだ。
わたしは、二度とあの夢を見ることはないだろうと思った。そして、決して美友紀にも言うまいと思った。