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天空の庭はいつも晴れている 第3章 雨季の兆し

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「何て?」ルシャデールの口調が急に鋭く変わる。「実は内緒で妻と子供がいるんです、やっぱり養子よりは実の子供の方がかわいいです、養子は単に跡継ぎが必要だからもらいました、って?」
 ルシャデールは一気にまくしたてる。どうしてこんなに動揺しているのか、自分でもわからなかった。たかぶる気持ちを彼女は必死に抑える。
(この人にとって、私はただの跡継ぎでしかない。わかってたじゃないか)
「あのひとがあなたの一番大切な人なんでしょ? でも、結婚はしていない、できない」
「あー……」トリスタンはうめき、そして言いづらそうに口を開いた「表向きはイェニソールの妻、ということになっている」
 呆れたようにルシャデールは養父を見ると、冷ややかな笑みを浮かべる。
「仕方なかった。私は結婚できないし、といって独り身の女性の家に私が通うのは、あまりに不自然だ。しかし、いつも一緒にいる侍従の妻ということなら」
「それを、彼女もあなたの侍従も受け入れたんだ」
 トリスタンはうなずいた。
「二人にすまないと思っている。特にイェニソールには」
「ふーん。あなたにとって大切な人ってのは、その程度のものなんだ」
 不実をなじる彼女に養父は一言もない。とげとげしい沈黙が支配する。
(しょせん大人なんてこんなもの。きれいごとを言っても、うそばかりだ)
 ルシャデールは息をつき、いらだちを抑えようと話を変えた。
「アニスはもう大丈夫?」
「うん、鎮静の煎じ薬飲ませて、今眠っているよ。明日の朝にはきっとよくなっている」
「そう」
「適切な対応だったよ。周りの大人に助けを求めて、屋敷に連れて来たのは」
「そのまま捨ててこようかと思ったけど、さすがにそれは大ひんしゅくを買いそうだから止めた」
 皮肉な物言いの中に、微かにアニスへの好意が感じられて、トリスタンは少し微笑んだ。
「今度から外出するときは必ず、大人の使用人を連れて行きなさい。メヴリダじゃなくてもいい。屋敷内にいる従僕なら、忙しくない者が一人や二人いるからね」
「アニスは?」
「アニサードは大人じゃないよ」
「私のことなんか……何も考えていないんだ」
 ルシャデールは唇をかんで上目使いにトリスタンをにらむ。
「あんたは跡継ぎさえいればいいんだ。薔薇園の連中とさえうまくやっていければ、私がここで何を考えて過ごしているかなんて、思いもしないんだろう!」
 呆然とするトリスタンに、ルシャデールは手じかにあったクッションを投げつけた。
「出てって! あんたが出てかないなら私が出て行く!」
 ドアに向かおうとする彼女を養父は押しとどめ、速やかに自分から部屋を出た。
 ルシャデールはベッドに向かうと、布団にもぐりこんだ。