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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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欠けた月の暗闇の中

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ブドウと女


廣木との身体の関係を断った加奈は自分の生活に活力を失っていた。もちろんバイオリンを演奏することにも、その影響はあった。廣木は加奈に迷惑がかかると思ったのだろうか、加奈の店に姿を見せることはなかった。加奈はせめて、廣木の顔だけでも見たいとと思うのだ。
 秋になり、廣木から個展の招待状が届いた。札幌のU画廊である。加奈は迷った。自分の身体が廣木を求めているのである。個展の10日前に加奈は観に行けない旨の手紙を廣木に送った。翌日、廣木から加奈の携帯に電話が入った。
「加奈さん。バイオリンを演奏して欲しい。初日と最終日だけでも、お願いしたい」
「先生の絵に私ではとてもバランスが取れないわ」
「それは僕の台詞ですよ。僕の個展に花を添えてほしいんです」
[分かりました。お受けします」
 加奈は自分が素直に返事をしたことに、電話を切ってから、初めて驚きを感じた。自分は素直に、それだけの目的で、返事をしたのだろうかと、自分の身体を疑った。
 個展会場には、4号から50号ほどの絵が30点ほど飾られていた。加奈の演奏時間は正午から30分間である。それまで加奈は受付を任された。記帳される来客で、廣木と縁のある方を、廣木は加奈に紹介した。加奈でさえも知っている有名な画家や国会の議員もいた。
改めて廣木の交際の広さを加奈は感じた。
 加奈はアヴェ.マリアを奏でた。廣木の個展に合わせたのではないかもしれない。今の加奈の心境なのかもしれなかった。50人ほどの来各は自分の息をも止めたような中に、加奈のバイオリンの音が響いた。
 演奏が終わると拍手が鳴り渡った。加奈は演奏の悦びに浸った。
 昼食の後、廣木の絵をゆっくりと見た。具象画であるから、加奈にも素直に絵を感じることができた。なかでも、ブドウの房を手にもって、その先端の粒を、口に含んでいる絵は、何故か加奈は自分のように思えた。顔は加奈には似てはいないが、ホテルで廣木との情事の後、加奈はマスカットをそのようにして食べたのだ。
 「ブドウと女」その絵は非売品と書かれていた。加奈は廣木も自分に未練があるのではないかと感じたのだ。
作品名:欠けた月の暗闇の中 作家名:吉葉ひろし