欠けた月の暗闇の中
「女性の美しさは時には悪にもなりますよ」
「何故?美しいことが悪いことに結び付くの」
「男の独占欲を駆り立てるからですよ」
「廣木さんは1度だけの約束を守っていたでしょう。と言うと、私は綺麗ではなかったのかしら」
「僕が付き合った女性の中では1番の美人さんでしたよ」
「では何故、約束を守っていたの」
「加奈さんのほうから待ちきれずに誘いがある確信があったからですよ」
「わたくし、ふしだらの女に見えましたの」
「その逆ですよ。僕のテクニックに加奈さんは味を覚えたら、また、体が求め理性との葛藤になると分かっていたから」
「確かに、そうなのね。未知の体験だった」
「ポルチオセックスまで行けば、そこはエベレストのてっぺんですが、それ以上を求めるのが、欲ですから、最後は麻薬に手を染めてしまうんですよ」
「ポルチオセックス初めて聞いた単語だわ。教えて」
「普通の主婦が、パチンコにはまって、離婚したり、お金を借りたり、セックスも、同じようなもので、そのことだけに夢中になると、知らなければよかったと、後悔しますよ」
「意地悪だわ。ここまでのお付き合いしたのですもの、最高の快楽を知りたいわよ」
「僕はできるのですが、この味を覚えてしまったら、ご主人との身体の関係が、終わりになりますよ。もちろん離婚したなら、僕が引き受けます」
「中学2年の娘がいます。離婚はできませんわ」
加奈はその言葉を吐くと、我に返ったのだ。
全裸の自分の姿が、鏡に映った、他人であればよいと思った。
羞恥心。麟がそれを加奈に教えてくれた。
「ごめんなさい。私から誘いながら、これで終わりにします」