欠けた月の暗闇の中
麟に託した夢が潰え、加奈は人生の全てを打ち込んできたバイオリンの夢すべてが空しく感じた。そう思うと生きることにも空しさがあった。愛情のない雄一との生活もそうであった。
加奈は雄一から離れても自立できることを計画し、カフェを開いたのだった。個性をと考え、バイオリンの演奏を始めると、地方紙で報じられ、加奈の写真も記載され,『美貌のバイオリ二スト』として名が知れ始めたのだった。しかし、リピート客は少なく、野次馬的な客が多いことは確かであった。クラシックだけではなく、演歌なども演奏すると、固定客が多くなり、加奈は衣装にも工夫するようになった。過っては一流を目指した加奈であったが、今は生活する収入を得ることだけを考え始めていたのだ。
欠け始めた月のように、加奈が若いころに描いた人生とはかけ離れた人生の道を歩み始めたのだった。そんなことを加奈自身は知ることはなかった。
ただ、老いを感じ始めた加奈は、廣木との激しい体の関係が、焼け跡の傷のように心に残っていたのである。加奈のほうから、廣木を誘った。
ラブホテルの階段を上がり、ドアを開ければ、そこは、小さな世界だ。秘密の2人だけの世界だ。本能むき出しでいられる世界なのだ。理性さえ掻き捨てれば、知らなかった未知の世界へも行ける。
加奈の豊満な乳房を、廣木は荒々しく、愛撫する。待ち続けていた加奈の身体は、弓のようにのけぞる。
加奈は新月を迎えるまで闇の中にとどまり続けるのだろうか?