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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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欠けた月の暗闇の中

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人形



 雄一との結婚は加奈にとっては再婚であった。35歳の時に加奈は初めて結婚を決意した相手がいた。彼、半田はバイオリ二ストであったが、加奈と同じく、加奈とは別の管弦楽団の楽団員であった。やはり結婚するだけの経済力はなく、10年もの間、お互いが傷を舐めあうような体の関係だけで、何時かは結婚したいと夢を見ていたのだ。しかし、半田は音楽では生活できないと判断し、実家のプラスチック工場を継ぐ決心をした。30人ほどの従業員がいる工場なので、収入面ではゆとりができた。
 加奈も自分の才能が判り始めていたから、平凡な主婦の道を選ぶことにした。しかし、加奈が思っていたような生活ではなかった。零細企業では加奈も1人の従業員であった。バイオリンを練習する時間も無くなり、慣れない生活のために妊娠することもできなかった。結婚前は生入れすれば即妊娠したほどなのだ。40歳になりようやく女の子が生まれたが、半田は浮気をしていた。加奈はそれを許すことができなかった。麟を引き取り離婚した。麟が産まれて5か月の時であった。
 実家に戻った加奈は、母に麟を預け、バイオリン教室を開いた。どうにか20万円ほどの収入を得ることができた。
 教室に通う娘の母親が
「再婚してみない。その気持ちがあるのなら麟ちゃんが今のほうがいいと思うわ」
 その相手が雄一であった。初婚で公務員。燃えるような愛情は感じはしなかったが、自分や麟の生活を考えれば理想的であった。
 40歳の時であった。ただ、愛情の薄い生活は、加奈はメリハリを感じなかった。刺戟がないと言ったほうが良いのだろうか。勝ち気で感情の起伏が激しい加奈には、平凡な生活は耐え難い生活でもあった。
 良い妻の姿が、加奈自身どのようなものなのか分からなかった。夫の好みの食事を作っても、雄一は当たり前のような顔で食すだけであり、雄一のために娼婦のように乱れてセックスをしても、反応は返ってこないのだ。
 加奈は雄一が自分と結婚した理由を尋ねた。
「君は綺麗で、バイオリニストだから、自慢できる」
 加奈は人形扱いされた自分が惨めであった。
作品名:欠けた月の暗闇の中 作家名:吉葉ひろし