あの日の空に帰りたい
悲鳴は出なかった。鋭く息を吸い込んだまま、次にそれを吐き出すことも忘れていた。息よりも先に吐き気がこみ上げてきて、翠はその場で激しく嘔吐した。
ひとしきり吐き終え、胃の中が空になってさえ、えづきが残った。声を出そうにも口の中がいがらっぽくて咳き込むばかりだった。
それでも助けを求め、生きている人を求めながら一階まで降りた。
ここまで来てようやく、外から物音が聞こえるのに気づいた。ざわめきともどよめきともつかぬ、音とも声ともつかぬ、それでも生きているものの気配を感じて、翠は外へ出た。
作品名:あの日の空に帰りたい 作家名:泉絵師 遙夏