白い鳩、夏の青空に(掌編集~今月のイラスト)
だが、靖国に一歩足を踏み入れた瞬間、場違いな格好をして来てしまったと感じた。
浴衣は和服だが略装だから。
でも、それをとがめる人はいなかった、むしろ自分のような若い世代の女性が日本人であることを誇りにしている証だと好意的に受け止めてもらえた。
毎年八月十五日に靖国神社の能楽堂前で行われる『放鳩式』。
早紀はその人垣の中にいた。
そして、『ありがとうございました』の唱和に合わせて300羽の白い鳩が放たれた。
白い鳩、ここに集った誰もが、羽ばたく鳩の姿に自分に所縁のある英霊を重ね合わせていたに違いない。
早紀ももちろんそうだった。
イケメン曾祖父の英霊が一羽の鳩に宿っているように見えた。
そして真っ青な夏空に吸い込まれて行くかのように天高く舞い上がるのを見て、心が洗われる心地がした。
(ひいお祖父ちゃん、ありがとう……私たちも頑張るから、これからも見守っていてください)
早紀はそう呟かずにはいられなかった……。
(終)
作品名:白い鳩、夏の青空に(掌編集~今月のイラスト) 作家名:ST