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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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<見下ろす花火> 病院の坂道 2

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 僕はそのとき、香織ちゃんがニヤリと含んだ様な笑みを浮かべたのに全く気がつかなかった。
 日曜日――。
 僕はいつもより遅い時間に早めに夕食を済ませてから自転車に乗って病院に出かけた。
 特に急ぐ必要もないので、いつもよりゆっくりと病院の坂を上って行く。
 陽がだいぶ傾いているので、水曜日の昼間とは暑さがまるで違った。
 上に行くほど建物もまばらになって風が好く通る。
 病室には七時少し前に着いた。

「あれ、祐君。ホントに来たんだ」香織ちゃんは少し大袈裟に驚いて見せた。
 香織ちゃんは元々表情豊かな人なのだ。
「あら、祐君珍しいわね」何かをメモしていた看護士の関さんも顔を上げる。
 関さんはこの病院では若手の看護士さんだ。
 僕はいつも元気な関さんのファンでもある。
「あの、病院からも花火が見えるって言うからちょっと見に……」
「あらあら、祐君って物好きね。花火はやっぱり近くで見上げた方が綺麗だと思うよ」関さんは体温計のボタンを押してケースに差し込みポケットにしまった。
「じゃあね、あんまり時間も無いけど、ごゆっくり」関さんが小さく手を上げて病室を出て行った。
「……。それじゃ、ラウンジに移動しよっか。今日はねぇお母さんもお父さんも用事で来れないって言ってたからヒマだったんだ」香織ちゃんは薄手のカーディガンを羽織って部屋を出てゆく。
 出口で振り向くと「何してるの。早く来て」と言いながら手をクイクイと動かした。