一人旅の勧め
旅先の天気
この章では、少々自慢話めいた話をさせていただく。
『晴れ男』とか『雨男』とか言う言葉がある。重要な場面でどのような天気の状態が多いかを表す言葉と解釈している。
この言い方に従うなら、10代までの私は間違いなく雨男だった。「今日は雨が降ったら嫌だな」という場面で、かなりの高確率で雨が降った。そんなとき、恨めし気に空を見上げて愚痴を言うと、母から「天気に文句言ったって仕方ないでしょ。」と叱られるのだった。
しかし、20代の半ば頃、気が付けば自分は晴れ男に変わっていた。それも、かなり強烈な。
20代半ばに友人に誘われてゴルフを始め、年に数回プレーしたが、ゴルフで雨に降られたことは一度もない。
比較的出張の多い仕事だったが、出張先で雨に降られたことが一度もない。
そのうち、出張やゴルフに行くときは雨が降るはずがないという気持ちで、雨具の用意さえしなくなった。
旅行に行くときは、さらにこの傾向が顕著だった。
やがて私は結婚し、子供も生まれて、年に数回の家族旅行に行くようになったが、旅行中は常に青空が見えていた。
いくつかその例を挙げよう。
ある年の夏、家族で沖縄旅行を計画した。日程は子供が夏休みに入った後の7月下旬。まだ梅雨が明けていない可能性があったし、沖縄と言う地理的な関係から台風が来る可能性もあったが、私はそんな可能性は一顧だにしなかった。なにしろ私は強烈な晴れ男なのだから。
近所に同じ小学校に子供を通わせている家があった。仮にAさんと呼んでおく。Aさんも、同じ年に沖縄旅行を計画していた。Aさんは台風との遭遇を避けるため、わざわざ子供に小学校を休ませて7月上旬に沖縄に行った。
その結果、Aさんは沖縄でまともに台風に遭遇し、一度も海に入ることができなかった。私はと言うと、ぴったりと旅行に出かける日に梅雨が明け、沖縄にいる間、ずっと梅雨明け直後の特徴的な絶好の好天に恵まれた。
しかもその年の夏は異常気象で、私が沖縄から東京に帰ってから天気が崩れ、ずっと雨天が続くという状況だった。
私は、その夏の稀少な好天をピンポイントで引き当てたのだった。
その他、子供たちが独立してから、妻と北海道に行った際は、天気は全般に今一つだったが、不思議なことに天気がぐずつくのは車に乗って移動している間だけで、目的地に到着して車を降りると晴れ間がのぞいた。結局北海道にいる間、一度も傘を使うことはなかった。
単なる偶然とは思っているが、このような偶然は非常に嬉しいし、「自分は晴れ男だから」と自分で思い込めば、いろいろなことに対して前向きになれる気がしている。ピグマリオン効果という言葉もあるが、まあ、一種の自己暗示のようなものだ。
作品名:一人旅の勧め 作家名:sirius2014