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隆子の三姉妹(後編)

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 由美と信二が何か関係があったというわけではないだろうが、裕也のお兄さんが信じであるということを最初から分かっていたのなら頷けなくもない。ただ、由美の性格から考えると、裕也の兄というイメージよりも、信二に対しては、
「ゆかりと心中しようとした男性」
 というイメージの方が大きいに違いない。
 元々は、由美と隆子の間で、どうしても歩み寄ることのできない結界が存在したが、それはゆかりだったのだろう。
 由美と洋子、隆子と洋子の間にも、踏み入れることのできない結界がある。
 それぞれの間に共通の、そうゆかりのような存在の人間が存在したのか、あるいはこれから現れるのか、ハッキリとしてこない。
 しかし、これから現れるかも知れない、結界を証明できるような人間の出現をじっと待っているというわけには行かなかったのだろう。
 この場所に、三人がそれぞれの思惑を持って集まってきた。もちろん、ここに来るだけの理由をそれぞれに持ってはいたが、三姉妹を結びつけるようなものは存在しないだろう。
 由美と洋子が墓前で鉢合わせたこと、それを影から一人佇んで見つめている隆子、三姉妹の関係から考えると、いかにも異様であった。
「三人とも、明日から、性格が変わってしまうかも知れないわ」
 と、隆子が感じるほどに、洋子も由美も、その場所から本当は逃げ出したいほどの怯えを抱え込んでいた。
 隆子は、その日、洋子と由美がその場の状況をどのように感じてやり過ごしたのか分からないが、会話がなかったのは確かだった。
 洋子は、この場所にに二度とくることはないと確信できたが、由美もここには来ないのではないかと思えた。
 では隆子はどうなのだろう?
 隆子も、日記を読んでから、
「もう、ここには来ない」
 と感じていた。それがまるで当初からの由美の目的であって、その目論見にまんまと嵌った気がしたのだ。
「ゆかり先輩は静かに眠らせておけばいいんだわ」
 隆子は、そう思うようにした……。

 それから季節もまわり、だいぶ皆落ち着いてきた。
 隆子たち三姉妹は、信二の弟たちとの関係を完全に断っていた。あそこで三人が出会ったのは、作為と偶然が重なり合ったものだが、それこそ、信二とゆかりの導きがあったからなのかも知れない。
 その日は、朝からデートだという由美は、出かける前から慌てていた。
 前にも同じような光景を見たが、あの頃は、台風を気にしている時期だったのは覚えている。
「あれから半年、長かったのか、あっという間のことだったのか」
 隆子はハッキリと意識できるほどの、時間的なスタンスを感じない。
 あれから、隆子の中で時間的な感覚は、完全に巻き沿いにしてしまっているようだった。
 洋子は、相変わらず恋には不器用なようで、彼氏ができたのかできていないのか、
「お姉ちゃんは、いつも違う人と歩いているからな」
 と、男女問わず、いつも違う人と歩いていることを皮肉を込めて言った。交友関係が広いようにも聞こえるが、実際には、深く付き合っている人はいないということだ。洋子の性格についてこれる人もいないのだろう。
 それでも成長の後は伺える。過去を完全に断ちきっているのは、三姉妹の中で完璧なのは洋子だけだからだ。
 由美はと言えば、今まで自分の存在自体に疑問を持っていたことが、自分の中での一番の悩みであったことに気付いたこともあって、三姉妹の中で一番性格が変わったのかもしれない。 
 というよりも、裏表が一番ないように思えて、その実一番裏表のあった由美に、裏表がなくなった。見た目そのままになったと言ってもいい。
 今日もどうやら、彼氏とデートのようだ。
 自分のことを分かるということが、どれほどのことかを理解したようだ。
「要するに自分に自信を持つことなのね」
 この一言が、由美のすべてを表している。元々、自信さえ持っていれば、三姉妹の中でも一番明るく社交的な由美なのだ。いかにも末っ子らしく、真っ直ぐに育ったという印象で、男性も三姉妹の中で由美を選ぶ人も少なくはないだろう。隆子も洋子も少し由美の性格に嫉妬するほどだが、それだけに由美を見れば、三姉妹全体のバロメーターが分かるのではないかと思えるほどになった。
「お姉ちゃん、遅刻するわよ」
「うん、分かってるわよ。そんなに慌てなさんな」
 と由美に言われて、明るい声を返しているのは隆子だった。
――私にこんなに明るい声が出せたなんて――
 由美にだけ、自信がどうのと言える立場ではない。隆子こそ自信を取り戻すことで、三姉妹の中でも一番の幸福を掴んだのだ。
 三姉妹にとって、ゆかりや、信二を長男とする三兄弟とのことは、まるで台風でも過ぎ去った後のようだった。
 別に何かがあったというわけではないが、彼らは自然と三姉妹の前から離れていった。三姉妹が追いかけることもなく、ゆかりと信二の墓参りも、三姉妹の中で、定期的に行くことに決まっただけで、嵐が去った後のその場所には、何事もなかったかのように、風が吹いているだけだった。
 その場所には、絶えず風が吹いていて、夕凪の時間でも、決して風が止まるということはなかった。地形的に無理もない場所なのだが、そんな地形に墓地があるというのもきっと何かの因縁めいたものがあるのかも知れない。
 隆子は、今日婚約者の家族と、自分の家族である三姉妹との顔合わせを控えている。緊張はしているが、それほど頭を悩ませるものではない。
「何とかなるわよ」
 それは、三姉妹がここまで培ってきたそれぞれの人生の中で、初めて目に見えて前に進む瞬間でもあった。
 今までが一進一退、そんな人生を歩んできた三姉妹。これからも隆子を中心に進んでいくことだろう。
 どこからか甘い香りがしてくる中、銀杏並木を歩いていく隆子は、それが金木犀の香りだということを忘れているかのように、まったく意識することのない後ろ姿を見せていた……。

                 (  完  )



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作品名:隆子の三姉妹(後編) 作家名:森本晃次