東京メランコリズム【後編】
「同棲してるんです、今。」
「そうですか…」
「だから余計にユキと彼女を重ねてしまうんですかね…」
「それはあるかもしれませんね。ユキさんはもうこの世には存在しないんです。もうわかっているでしょ?だから彼女さんだけを見てあげてください。」
「わかってます。」
「もしかしたら悪化してしまうかもしれませんからね。」
「でも彼女のおかげで寂しさは紛れてます。幻覚が減ったのも彼女のおかげだと思ってます。」
「確かにそれはあるかもしれませんね。それなら尚更、彼女さんと向き合ってください。」
「はい。わかりました。」
「では、また二週間後に来てください。薬もちゃんと飲むようにしてくださいね。」
「はい…」
そう言うと診察室を後にした。シンジはもう薬を飲むことが嫌になってしまった。今回の診察で、薬を飲むことは誤魔化しているに過ぎないと思ったからだ。医師の言葉をそうとらえてしまったシンジは、処方箋通りに薬を飲むことをやめてしまうのだった。
そしてシンジが帰宅すると、あおいが帰って来た。
「あ、おかえり。」
「ただいま。今日は病院どうだった?」
「いつも通りだったよ。」
「そっか。良かった、良かった。」
「あおい、お疲れ様。まだ言ってなかったね。」
「シンジも病院、お疲れ様。」
「うん。ありがとう。」
「病状も安定してるみたいで良かった。」
「…うん。」
その日、シンジは薬を飲まなかった。ただの対症療法に過ぎないと思い馬鹿馬鹿しく思えたこともあったが、ユキのことを忘れたくなかったのだった。
翌朝、シンジはこう言っていた。
「ユキ…会いたいよ…」
当然、ユキからの返事はなかった。
「ユキ!」
その声であおいは目を覚ました。
「どうしたの?」
「ユキ!」
そう言うとシンジはあおいに抱きついた。
「どうしたの?幻覚?」
「ユキ!」
作品名:東京メランコリズム【後編】 作家名:清家詩音