東京メランコリズム【中編】
この会話がふたりの最後の会話になった。そして休憩時間も終わり、みんなは仕事に就いた。しかし、この日、なつは体調不良を理由に早退していたのだった。蓮斗は一緒に昼食を取ったなつの体調不良になど気付いてる余裕はなかった。
翌日、蓮斗は仕事へ行くと、職場はざわついていた。
「おはようございます。どうしたんですか?」
「なっちゃんが…」
「なつさんがどうしたんですか?」
「亡くなったみたいなの…」
「え?どうして?」
「どうやら自殺したみたいなのよ、彼女…」
「え?本当ですか?」
蓮斗は驚きを隠せなかった。遺書がなかったため、自分への見せしめだったのか否かは定かではなかったが、自殺をすることのいけなさを教えたかったのだろうか。どうやら左手首を切ったようだった。春子と同じ死に方だった。
その日、蓮斗は仕事が手につかなかった。それは職場の他のみんなも同じことだった。それからも話題はなつの話で持ちきりだった。休憩時間に入ると、いつも一緒になつと昼食を取っていた蓮斗の元へとみんなは集まり、何か知らないかなど色々と聞いてきた。蓮斗はそれに対して、理由はわからないと答えた。本当に理由が思い浮かばなかったからだ。自分への見せしめかもしれないと少しは思ったものの、そんなことを口にすることなど出来なかった。
そしてなつの葬儀の日、蓮斗は春子の葬儀に参列しなかったように、なつの葬儀に参列することはなかった。きっと心のどこかに恐怖心があったのだろう。自分のせいで死なせてしまったという自己嫌悪にも似た想いがあったのだ。
なつさん 今どこに居ますか?
なつさん 今何をしていますか?
なつさん 今誰と居ますか?
なつさん 今幸せですか?
なつさん 僕を覚えていますか?
なつさん 僕と会いたいですか?
なつさん どうしたら会えますか?
作品名:東京メランコリズム【中編】 作家名:清家詩音