東京メランコリズム【中編】
「春子さんにはもう会いないよ。」
「そうだよね…」
「うん!だからちゃんと処方された通りに薬を飲んで。」
「わかったよ。」
蓮斗はそうする気はなかった。やはり春子と同じことをすれば春子に会える、そんな気がしてならなかったのだ。そして仕事が終わり、蓮斗はコンビニでカッターを買って帰った。
蓮斗は左腕を少し切ってみた。浅いせいか痛みはあまり感じなかった。もう一度切ってみたものの、痛みを感じることはなかった。
「春子…どうすれば痛いのかな…」
春子からの返事はなかった。
「もっと深く切れればいいのかな…」
春子からの返事はなかった。
「そもそも痛みなんて感じないものなの?」
春子からの返事はなかった。
「痛み云々ではなくて、春子に会いたいんだよ。」
それでも春子からの返事はなかった。
翌日、蓮斗はいつものように仕事へ行った。左腕の傷を隠すためにリストバンドをしていった。内心ほっとした部分もあった。いつ誰にバレてもおかしくないと思っていたのだ。何故ならリストバンドは愚か、サポーターさえしている人が居なかったからだ。
「おはようございます。」
「おはよう。腕どうしたの?」
「少し手首が痛くて…」
「手作業だもんね。無理しないようにね。」
「ありがとうございます。」
色々な人にリストバンドをしていたことを気付かれ理由を聞かれたが、何とかリストカットだとはバレなかった。そして昼食はいつものようになつと食べた。
「ねぇ、腕…」
なつは周囲に悟られないようにと小声で話した。
「あぁ、これ?」
「切ったの?」
「…」
なつにはバレていた。
「少しだけ…春子に会えるかなと思って。」
「そんなことしたって春子さんには会えない。春子さん、悲しむよ。」
「そうなのかな…喜んでくれると思って。」
「もう!馬鹿じゃないの?いい加減にしなよ!」
なつは声を荒げて言った。
「ごめん。」
作品名:東京メランコリズム【中編】 作家名:清家詩音