東京メランコリズム【中編】
「…」
「病状も良くなりませんよ?」
「はい。でも調子良かったので…」
「鬱病は調子の良い時と悪い時の波があるんです。」
「もちろんわかってます。」
「次回からは調子が良くても必ず来てください。」
「…はい。」
「今週はどうでしたか?」
「いつもと変わりません。」
「そうですか…」
「好きな方は?」
「私だけのモノです。」
「そうですか…」
医師はやはりただの鬱病ではないと思った。明らかに異常だと感じたのだった。
「やっぱり私、変ですか?」
「正直に話しますね。その好きな方はこの世には存在しません。好きだという想いが強いのでしょう…恐らく。はっきり言います。ユキさんはただの鬱病ではないと思います。」
「それなら何ですか?」
「…」
医師は言葉に困った。まだはっきりと病名は断定出来なかったからだ。
「私、そんなに悪いんですか?」
「はい。少なくとも今は以前より悪化していると思います。」
「病名は?」
「まだ断定は出来ません…申し訳ないのですが…」
「じゃあ、わかったら教えてくださいね。」
「はい。」
「私、何でも構いませんから。」
「…」
「どんな病気でも私は私ですから。」
「わかりました。では今日はこれで…次はまた来週来てください。薬は前回と同じものを出しておきますね。ちゃんと処方箋通りに飲むこと…これは約束してください。」
「はい。」
ユキは悪びれることなく嘘をついた。処方箋通りに飲むことなど考えもしなかったのだ。そして診察が終わった。
この時、冬も本番といった感じで、街を歩く人たちはコートを羽織るようになっていた。ユキはもちろん、職場の人たちもコートを羽織って出勤していた。とてもとても寒い冬だったのだ。
翌日、ユキが仕事へ行くと新人が入る話題で持ち切りだった。
作品名:東京メランコリズム【中編】 作家名:清家詩音