東京メランコリズム【中編】
「…」
「もう別れよう…」
「え?」
「勝手かもしれないけど、支え切れない。」
「支えて欲しいだなんて思ってないよ。」
「私は支えてあげたかったんだよ。」
「僕はそんな風には思ってなかった。」
「私の気持ちはどうなるの?」
「…」
「なんか言ってよ。」
「わかったよ。」
「何がわかったの?」
「別れること…」
そうして蓮斗と秋江は別れることになった。ふたりがヨリを戻した期間はごくわずかな時間だった。
翌朝、蓮斗が起きるとそこに秋江の姿はなかった。置手紙さえもなかった。秋江は夜中に荷物をまとめ出て行ったのだった。
その日、蓮斗は仕事へ行けなかった。大切な人を失ったショックが大きかったのだ。結果としてバレてはいなかったものの浮気さえしなければ、そう思っていたのだった。失って初めて気付くことがあると言うけれど、本当だった。約五年ほど前に別れた時には、そんなことは不思議と感じなかったのだ。きっと春子となつを亡くし色々なことに気付いたのだろう。
その日の夕方、蓮斗の家のインターホンが鳴った。ユキだった。
「こんばんは。また来ちゃいました。」
「あぁ…」
「迷惑でしたか?また幻聴が出たのかなと思って…」
「ううん。今日は違うんだ。」
「風邪…ですか?」
「彼女と別れることになって。」
「ショックだったんですね…」
「うん…とりあえず入りなよ。」
そう言うとユキは家へ入った。すると寂しさを紛らわすために蓮斗はユキにキスをした。そして身体を触り、ふたりはひとつになった。ユキは抵抗することなく、むしろ嬉しそうな様子だった。寂しさを紛らわすためでもいいとユキは思っていた。恐らくそうだろうと感じていたが、好きな人を自分のものに出来ると思ったユキは幸せだった。
「蓮斗さん、こんな時になんですけど私、幸せです。」
「本当に?」
「はい。蓮斗さんの気持ちが今は私にないことは知っています。」
「…」
作品名:東京メランコリズム【中編】 作家名:清家詩音