東京メランコリズム【前編】
には、起き上がることさえも億劫になったり、何もかもが嫌になったり、時には希死念慮が増すことがあること、それ以外は蓮斗には難しくてよくわからなかったが、春子が言っていた通りカートも同じ病気だったという説があることはわかった。蓮斗は複雑な気分だった。春子を助けてあげたいという気持ちと、そんな春子に惹かれていた自分が居たからだ。世の中にはどうしようもないことがあるのは、幼い頃に両親を亡くした蓮斗にはよくわかっていた。蓮斗は自分がどうなろうと、どんな手を使ってでも春子を亡くす訳にはいかなかった。
それから数日後、春子から電話がきた。
「もしもし、春子です。」
「もしもし、蓮斗です。」
「ふふふ。蓮斗、真似しないでよ。」
「あはは。」
「明日、会えないかな?」
「明日?大丈夫だよ。」
「私、明日は休みだから昼から会えない?」
「いいよ。」
「初めて会った場所に十二時に待ち合わせしない?あ、初めて会った場所覚えてる?」
「もちろん覚えてるよ。」
「じゃあ、十二時に…」
「うん。じゃあね。」
そう言うと電話は終わった。蓮斗は春子に会えることが嬉しくてあまり眠れなかった。同じように春子も蓮斗に会うことが楽しみであまり眠れなかったのだった。ふたりはまるで遠足の前日の小学生のようだった。
そして翌日、ふたりは初めて会った場所、蓮斗が春子の携帯電話を拾った場所で合流した。懐かしい感じはもちろんだったが、どこか新鮮な感じさえ覚えた。ふたりは少し歩いた。すると蓮斗がこう言った。
「実は昨日はあまり眠れなかったよ。」
「私も…」
「偶然だね。」
「うん。お揃いだね。」
「でもどうして?」
「なんかドキドキしちゃって。」
「僕も同じだよ。」
「ふふふ。」
「なんかおなか空いたな。」
「じゃあ、何か食べる?」
「うん。この前の喫茶店でいいよ。」
「そうしようか。」
作品名:東京メランコリズム【前編】 作家名:清家詩音