東京メランコリズム【前編】
「十八時までだから、十九時には町田に着くよ。」
「じゃあ、十九時に町田の北口でいいかな?」
「うん。じゃあ十九時に町田の北口で。」
「じゃあ、待ってるね。また明日。」
「うん。おやすみ。」
「おやすみ。」
そう言って電話を切った。
そして翌日、蓮斗は待ち合わせの十九時に町田駅の北口に居た。少しすると春子がやって来た。淡いピンクのワンピースに黒いカーディガンを羽織っていた。
「お待たせ。」
「僕も今来たばかりだから大丈夫だよ。」
「あ、コンビニ寄ってもいい?」
「うん。いいよ。うち、飲み物もないから…」
「じゃあ、買っていくね。」
そう言ってふたりはコンビニで買い物をして蓮斗の家へ向かった。
蓮斗は家へ着くとお気に入りの音楽をかけた。
「これ知ってる!」
「ニルバーナだよ。一番好きなんだ。ニルバーナを聴くことが趣味みたいなものだから。他には特に何も…」
「私も好きだよ、ニルバーナ。」
「へぇ…意外だったな。」
「そう?」
「うん。なんとなくだけど、邦楽しか聴かないと思ってたよ。」
「そう?結構色々聴くよ。でもニルバーナは一番好きかな。」
ふたりはニルバーナの話題で持ちきりだった。
「カートみたいな男になりたいなと思ってるんだ。」
「だから髪長いの?」
「うん。ギターは弾けないけどさ。」
「触ったこともないの?」
「少しだけあるけど挫折した…」
「よくある挫折組だね。」
「うん。」
「でも雰囲気あるよ、蓮斗さん。」
「あ、呼び捨てていいよ、蓮斗で…」
「じゃあ、私も春子でいいよ。」
それからもニルバーナの音楽は流れ続けた。
「ねぇ、お水もらってもいい?」
「ちょっと待っててね。」
作品名:東京メランコリズム【前編】 作家名:清家詩音