東京メランコリズム【前編】
「…はい。」
「恐らく統合失調症だと思います。幻覚などは見えたりしませんか?」
「いいえ。僕を呼ぶ声が聞こえるだけです。」
「わかりました。もし幻覚を見るようになったら教えてください。あと通院した方が良さそうですね。来週また診察に来てください。」
「はい。わかりました。」
その日の診察は終わった。そして以前より薬の量が増えたのだった。統合失調症とは主に幻聴や幻覚が見えることが多いらしい。そして酷い鬱状態に陥ると希死念慮が湧いてくることもある病気だ。
それから時間があったので、久しぶりに東京の街をふらふらして家路へと着いた。蓮斗は東京の街をふらふらしていれば、また春子に会えるかもしれない…心のどこかでそう思っていた。しかし、携帯電話を落とす女性は愚か、当然春子の影も姿もそこにはなかったのだった。
翌日、蓮斗はいつもと同じように仕事へ行った。そしていつもと同じように黙々と作業をしていた。こうすることで時間だけは流れていった。職場の人たちは蓮斗の様子がおかしかったことを直接聞くことはなかった。休憩時間は相変わらずなつと昼食を取っていた。
「昨日、どうだった?」
なつは周りの人間に気付かれないように気を遣い小声で聞いた。それに蓮斗も小声で答えた。
「薬が増えました。あと通院することになりました。」
「そっか。悪化しちゃったんだね。」
「みたいですね…」
「週末空いてる?」
「はい。またデートですか?」
「あはは。バレてたね。」
「大丈夫ですよ。」
「そしたらいつも通りでいいかな?」
「え?」
「蓮斗くんの家に行ってもいい?」
「うちで良ければ…」
「じゃあ、決まり!」
そうしてふたりはまた会う約束をしたのだった。しかし、なつの強引さは蓮斗にとっては今はすごく救いだったのだ。これだけの明るさを持った人間が他には居なかったからだろう。職場で何かあれば助けてくれるだろうとも思っていた。今、なつを失ってしまえば蓮斗はどうにかなってしまうだろうと自覚していた。しかし、なつに恋愛感情は持っていなかった。
それから週末が訪れた。約束の時間になつはやってきた。前回と同じようにTシャツにジーパンというラフな格好だった。そして蓮斗の家へと向かった。家へ着くと蓮斗はこう
作品名:東京メランコリズム【前編】 作家名:清家詩音