東京メランコリズム【前編】
「あぁ、そうだ。少しだけ聴いたことはあるよ。好きなの?」
「はい。いつもこればかり聴いてますよ。」
「飽きない?」
「はい。なつさんはどんなのが好きなんですか?」
「私?私は音楽はあまり聴かないから詳しくなくて…」
「そうなんですね。」
「色々な音楽教えて欲しいな。」
「僕もニルバーナ以外はあまり詳しくなんです。」
「でも嫌いじゃないよ、ニルバーナ。」
「それなら良かったです。」
「ねぇ…」
「なんですか?」
「蓮斗くんてどんな人が好み?」
「うーん…特にこれといって好みはないです。」
蓮斗の好みは春子のようなタイプだったが、そんなことは当然言えなかった。話せばきっと春子の話題になってしまうと思ったからだ。
「そっか。」
「はい。」
「ちなみに彼女どれぐらい居ないの?」
「二~三ヶ月ぐらいですかね…」
「なんで別れちゃったの?」
蓮斗は言葉に困った。
「…」
「聞かない方が良かったかな…」
「いいえ。どうしてもと言うなら…」
「聞きたいな。」
「双極性障害という病気の子と付き合っていたんです。それで…」
「それで?」
「彼女が自殺したんです。」
「…」
「あ、すみません…」
なつは聞かない方が良かったと思い少し後悔した様子だった。本当のことを平然と答えてしまった蓮斗は少し嘘をついた方が良かったのかとさえ思った。
「ううん。なんか変なこと聞いちゃったね。ごめんね。」
「いいえ。僕は大丈夫ですから。」
「まだ彼女のこと想ってるの?」
「…もう忘れなきゃと思ってます。だから新しい仕事にも就いたんですよ。」
「そっか…」
「何かを始めれば、少しは気が紛れるかなって…」
「それで今の仕事に?」
作品名:東京メランコリズム【前編】 作家名:清家詩音