東京メランコリズム【前編】
「はい。お蔭様でだいぶ慣れました。環境も悪くないと思います。」
「良かったー。私、あれでも緊張してたんだよ?」
「本当ですか?」
「うん。本当だよ。」
「そうは見えませんでしたよ。」
「これでも結構人見知りするんだ。」
「嘘だ…」
「今、嘘だって言ったでしょ?」
「…は、はい。」
「ふふふ。」
「でも本当ですか?」
「うん。でもね…」
「でも?」
「不思議と蓮斗くんにはそんなに人見知りしなかったな。」
「はぁ…」
「ねぇ、そろそろお店出ない?」
「はい。どこか行きたいところありますか?」
「うん。映画が観たいなって…ダメかな…」
「いいですよ。」
それからふたりは映画館へ向かった。その時に流行っていた恋愛ものの映画を観た。ある女性が勇気を出して告白をするというベタな結末を迎えるストーリーだった。
「面白かったね。」
「はい。ベタな恋愛映画でしたけどね。映画館なんて何年ぶりだろう…」
「私も何年ぶりだろう。私もあんな恋したいな。」
「なつさんも恋人居ないんですか?」
「いないよー。私モテないもん。」
「そうですか?明るいし人当たりもいいし…モテそうなのに。」
「蓮斗くんこそモテそうじゃん。」
「いいえ。僕は…根暗ですし。」
「話変わるけど蓮斗くんの家行ってもいい?」
「散らかってるけど、それでも良ければ…」
「じゃあ、決まりだね。ここから近いの?」
「はい。そんなに遠くはないですよ。」
そしてふたりは蓮斗の家へと向かった。
蓮斗の家へ着くと、春子が来た時のようにニルバーナをかけた。蓮斗はこの時、少しばかり春子が来た時のことを思い出していた。
「これなんていうバンドだっけ?」
「ニルバーナですよ。」
作品名:東京メランコリズム【前編】 作家名:清家詩音