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東京メランコリズム【前編】

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朝になると蓮斗はこう言った。
「今日は体調はどう?」
それが蓮斗の口癖になっていた。
「大丈夫だよ。」
それが春子の口癖になっていたが、実際はそうではなかった。明らかに春子の様子がおかしいと思う日もあった。それでも蓮斗は薬を大量に飲ませることも、リストカットを許すこともなかった。それだけ蓮斗は春子に夢中だったのだ。蓮斗はそうすることで、春子とずっと一緒に居られると思っていた。

 桜も散り、もうすぐ梅雨かと言う時に事件は起こった。春子より先に眠りに着くことのなかった蓮斗が、春子よりも先に眠ってしまったのだ。春子は薬を大量に摂取した。そして新しく買ってきたカッターで手首を切っていたのだ。

 そして翌朝、蓮斗が目覚めると、辺りは血塗れだった。恐らく今までよりも深く切ってしまったのだろう。蓮斗には嫌な予感が脳裏をよぎった。
「春子!」
「…」
「春子!」
「…」
春子から返事はなかった。蓮斗は救急車を呼んだ。すぐに救急車が駆けつけて来た。
「春子は大丈夫ですか?」
「…出血が多過ぎて助かるかわかりません。」
救急隊員ははっきりとそう言った。それから救急車で春子は病院へ運ばれた。この時すでに春子の息はなかった。蓮斗は涙を流すことなくただ唖然としていた。状況が飲み込めていなかったのだ。幼い頃に両親を亡くした蓮斗が、絶対に亡くしてはいけないと思った人を亡くしてしまうかもしれなかったからだ。そうすると医師がこう言った。
「ご家族の方ですか?」
「いいえ。」
「春子さんは助かりませんでした。出血多量が死因です。」
「…何とか輸血とかで助かりませんか?」
「すみません…何より出血が多過ぎたのと、それから時間が経ち過ぎたのが原因です。」
「…お願いします!」
「すみません…」
「…」
蓮斗は言葉を失くした。それから家族が病院に呼ばれたのだった。蓮斗は春子の家族が到着する前に病院を後にしていた。泣き崩れる家族を見ればきっと自分が両親を亡くしたことや、春子を亡くしたことを認めてしまうようで怖かったのだ。

 春子の葬儀に蓮斗は参列しなかった。ようやく状況を飲み込めた蓮斗には衝撃的過ぎたのだった。蓮斗は何度後を追って死のうと思ったことだろうか。ただ蓮斗にはそんな勇気