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東京メランコリズム【前編】

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「うん。確かに。」
「だから珍しい方かなって。」
「あはは。自分で言ってる。」
「蓮斗ってそういうところ面白い。」
「そう?」
「ちょっと天然だよね。」
「あはは。そうかなぁ…」

 そしてふたりはそれから春子の家へと向かった。駅から春子の家までは少し距離があった。
「ここがうちです。」
「へぇ…お邪魔します。」
「ね?散らかってるでしょ?」
「そんなことないよ。うちよりは綺麗だよ。」
春子の部屋へ入ると、テーブルの上には大量の薬が入った袋とカッターが数本置かれていた。いたたまれなかった蓮斗はこう言った。
「カッター、捨てなよ。」
「でも…」
「もう自分を傷付けないで欲しいんだ。」
「うん…わかった。」
「好きな人が自分を傷付けてたら悲しいでしょ?」
「うん…そうだよね。」
そう言った春子はカッターをゴミ箱に捨てた。春子はカッターを捨てたものの、また拾うことや、捨てられてしまえばまた買うことを考えていたのだった。たかがカッターのひとつやふたつの話はどうってことはなかった。
「薬はちゃんと飲んでるの?」
「…ううん。ついオーバードーズしちゃう…」
「良くないよ。」
「わかってはいるの。でも薬ないと辛くて。」
「それは飲まない日もあるっていうこと?」
「うん。そうだよ。飲まないと薬が余るでしょ?だから辛い時に大量に飲んでしまうの。」
「それも良くないよ。」
「でも双極性障害は治らないんだよ?」
「そういう問題じゃないよ。ちゃんと処方された通りに飲めば症状は抑えられるんでしょ?」
「うん、たぶん…でもそれでも足りないことがあるから。」
「そういう時は先生と相談してごらんよ。」
蓮斗はそれ以上何も言えなかった。双極性障害という病気を…春子を理解してあげられるのか不安だった。そして何より失いたくなかったのだ。幼い頃に両親を亡くした蓮斗は、またひとりぼっちになってしまうかもしれない…そう思ったのだった。