オヤジ達の白球 56話~60話
「グランドでの失敗は、グランドでしか取り返せねぇ。
しくじったからと言って登板の機会をゼロにしたんじゃ、
坂上の立つ瀬がねぇ」
「なんだと。やい、寅吉。
お前はあの意気地なし野郎にこのうえまだ、投げる機会を
与えるというのか!」
熊が血相を変えて立ち上がる。
「馬鹿を言いうんじゃねぇ。冗談じゃねぇ。
2度と投げさせるもんか、あんな無責任野郎に。
坂上をもう一度投げさせるというのなら、俺はこのチームを辞める。
なんでぇ。いままで気持ちよく呑んでいたというのに、
すっかり酔いが醒めちまった。
帰る。くそ、面白くねぇ!」
ガタガタとガラス戸を揺らし、北海の熊が帰っていく。
「妙な方向へ話が飛んじまったな・・・まぁいい。
どうやら俺たちは呑みすぎだ」」
どれ、俺たちもそろそろ帰ろうぜと、寅吉が立ち上がる。
小上がりで眠っている男たちを、つぎつぎ起こしていく。
千鳥足の男たちといっしょに、岡崎と小山慎吾も帰っていく。
大騒ぎがつづいた店内に、今日はじめての静寂が戻ってきた。
「じゃ・・・わたしも帰ろうかしら」陽子が割烹着を脱ぎ始める。
亡くなった女房が愛用していた割烹着だ。
いまは陽子用として厨房へ入るたび、あたりまえのように身に着けている。
作品名:オヤジ達の白球 56話~60話 作家名:落合順平