オヤジ達の白球 56話~60話
熊が目を細めて、メールの文章を覗き込む。
だが、どうにも焦点が合わないようだ。画面を近くしたり、遠くしている。
「老眼ですか?。熊先輩」
「バカやろう。まだ老眼は早い。
だがよ。最近はとみに小さな文字が見にくくなってきた。ただそれだけだ」
「それなら、設定で直ります。
見にくいのなら大きな文字に変えればいいだけですから」
「そんな便利なことができるのか、いまどきの携帯は!」
携帯を受け取った慎吾が、表示の設定を変える。
「お・・・なんだよ。これならはっきり見えるぜ。どれどれ」
北海の熊が、大きくなった文章をのぞきこむ。
「なんだって・・・カミさんにばれるとまずいから、早めに宿を出て
帰りの道を急いでいる。
なんでぇ、一大事でも勃発したかと思ったが、ただの普通の展開じゃないか」
面白くもなんともねぇな・・・とつぶやいた熊の顔が次の瞬間、
いきなりあかるく輝く。
「なんだと。帰りの道を急いでいるのに、水上温泉から10キロほど
南下した地点 雪にはばまれて、ただいま立ち往生中だと・・・
おっ。もうそんなに降っているの、群馬県北部の山沿いは」
「えっ。ということはすでに国道17号線で、立ち往生が
発生しているということですか!」
「そうらしいな。
ついでに、助手席で笑顔で呑気にVサインをしている愛人の画像まで
送って来た。
愛人は笑顔でも、早く家に戻りたい先輩のこころのうちは火の車だ。
やれやれ。バレンタインデーの前日だというのに俺の先輩は、どうやら、
天国と地獄の中間にぶら下がっているようだな」
(60)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 56話~60話 作家名:落合順平