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根岸 郁男
根岸 郁男
novelistID. 64631
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徳冶朗と亜理須

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徳冶朗「奈津実さん、あまりにも突然のことで私らも良く理解できなくて申し訳ありません。雄一朗の為にもお腹の赤ちゃんの為にも、じいじとして精一杯支援させていただきますよ。電話では話も良く見えないので、四十九日の時にいらしていただけるとの事なのでその時にまた詳しくお話しさせてもらってもいいですか」
奈津実「(涙ぐんで)はい、もちろんです。宜しくお願いします」
   徳冶朗、座りかけた椅子に再び座る
登紀子「どなたから」
徳冶朗「雄一朗の子供がお腹の中にいるという朋坂奈津実さん、という方から。婚約者だって。雄一朗から何も聞いてなかったのかと泣いていた」
登紀子「それで」
徳冶朗「四十九日に来るって。雄一朗のお墓にいって男の子の赤ちゃんだったよと報告するって」
登紀子「男の子の赤ちゃん?雄一朗も一言二言、言ってくれればいいのに奈津実さんには心配とご迷惑かけさせてしまったわねぇ」
徳冶朗「わしらには雄一朗の生き形見が残されたんだ。ありがたいことだ」
   徳冶朗、お茶をぐい、と飲み
徳冶朗「名前はなんて名前にしようかな。雄一朗の雄という字とわしの冶、という字を使って雄治、はどうだ」
登紀子「(少し吹き出して)あなたの子供じゃないのよ」
徳冶朗「いいじゃないか、それくらい。じじいの特権だよ」
   徳冶朗、登紀子、微笑んでいる。

○ 徳冶朗の家  玄関 表
   ピンポーン、とチャイムボタンを押す亜理須。
   駐車場には出やすいように頭を道路側にむけて徳冶朗の車の前に停車してある黄色い軽自動車。

○ 徳冶朗の家 玄関 中
   出迎えている徳冶朗と登紀子、ニコニコしている。その笑顔に合わせるようにニコニコしながら
亜理須「お二人揃って、にこにこされて、何かいいことでも?」
登紀子「あったんですよ、それが」
徳冶朗「災い転じて福となす、じゃないがあったんです」

○ 徳冶朗の家 居間
   お茶をいただいている亜理須
亜理須「そうだったんですか。雄一朗さんに赤ちゃんが。おめでとうございます」
   にこにこしている徳冶朗夫婦に
亜理須「ところで赤ちゃんは、その女性の方が育てられるんですか。お一人で」
徳冶朗「(登紀子と顔を合わせ)そう、…だろうな。わしらじゃ無理だろう」
亜理須「それじゃこれからいろいろと大変ですね。お金もかかるだろうし」
徳冶朗「そうだ、四十九日には来るっていってた。雄一朗のお墓にいって報告したいって」
亜理須「そうなんだ。楽しみですね」

○ 某 寺院 表 駐車場
   徳冶朗、腕時計を見て少し苛立っている。
徳冶朗「静香のやつ、遅いな、ちゃんと時間は守れよな、子供じゃあるまいし」
登紀子「(傍らに立っている)夕べ、少し遅くなるって電話あったじゃない、あなたが電話とったのよ」
徳冶朗「そうだったかなぁ」
   近くに、同じように待っている磐田五十八と亜理須。
五十八「兄さん、おれは中で待たせてもらうよ。立ってるだけで腰が痛いんだ」
亜理須「(何かを発見)あっ、タクシーが来ました」
   タクシーが皆のところから少し離れたところに付き、中から喪服姿の静香が足早に向かってくる。静香に視線が集まる。
静香「どうしたの皆、私を待っていてくれたの?うれしーい。本堂で待っててもよかったのに」
徳冶朗「おまえじゃない、おまえじゃない」
静香「私じゃないって、他に誰がいるのいるのよ」
徳冶朗「奈津実さんだよ」
静香「なつみさん?、誰よ、その人」
五十八「雄一朗の婚約者だとさ」
静香「(驚愕)婚約者?私、なにも聞いてない」
亜理須「(タクシーを発見)あっ、来たみたいですよ」
   少しスピードを上げたタクシーがみんなのいる前に到着。
   みんな、注目している。
   ドアが開いて喪服姿の奈津実が少し突き出たお腹を庇うように、手で触りながらおりてくる。
亜理須「あっ、写真の人」
   呆気に取られる徳冶朗。亜理須、徳冶朗の腕を取り
亜理須「雄一朗さんと一緒に写っていた写真の人よ。やっぱり彼女さんだったんだ」
奈津実「こんにちは、朋坂奈津実です。先日は突然電話にて大変失礼しました。本来ならば…」
徳冶朗「(言葉を遮り)まあまあ、さぁ中に入りましょう。そろそろ始まる時間だ」
   全員、本堂へ向かう。
   亜理須、奈津実の少し突き出たお腹をみて
亜理須「はじめまして、私、互助会の仕事をしている森野亜理須といいます。お腹、触ってもいいですか」
奈津実「(にこやかに)いいですよ。どうぞ。最近胎動を感じるんです。うれしくて」
   亜理須、お腹の前にしゃがみ込み、撫でながら耳をお腹に当てる
亜理須「あ、動いている。ふむ、なになに。おじいちゃんに合いたいっていってる」
徳冶朗「(振り向いて)えっ、本当か」
亜理須「(軽く舌を出し)すんません、嘘です。」
   徳冶朗、登紀子、笑っている
   対照的に訝しげに睨んでいる静香。眉間に皺を寄せる五十八。

○ 寺院 中 本堂
   読経が室内に響き渡る。
   住職が木魚を叩きながら般若心経を唱えている。
   みんな椅子に座って合掌している。
   静香、後方にいる奈津実を見る。
   奈津実、右手はお腹に手を宛がい、左に数珠をして読経を聞いている

○ 寺院 別室 会食
   テーブルに並べられたお膳。
   席についている登紀子、静香、五十八、亜理須、奈津実。
   立っている徳冶朗が挨拶をする
徳冶朗「皆様、本日はお忙しい中、亡き雄一朗の四十九日法要にお集まりいただきまして誠にありがとうございます。皆様には雄一郎の葬儀の際にひとかたならぬお世話を賜りましたこと改めて御礼もうしあげます。お蔭様で無事に四十九日法要を終えることができました。皆様方のお力添えの賜物と深く感謝しております。さて、食事に入る前に改めて紹介したい方がおります。朋坂 奈津実さんです。」
   奈津実、椅子を引いて立ち上がる。
徳治朗「奈津実さんは雄一朗の婚約者でありましてもう既に雄一郎の赤ちゃんをお腹に授かっておられるとのこと。」
静香「(呟くように)私、お兄さんから婚約しただなんて聞いてないわ。まして赤ちゃんがいただなんて」
奈津実「はじめまして、朋坂 奈津実と申します。」
   奈津実、深くお辞儀をする
奈津実「皆様には報告が遅れたこと深くお詫び申し上げます。私と雄一朗さんは同じ会社で知り合い、愛をはぐくんで参りました。現在は妊娠24週目に入りました。妊娠がわかった頃、雄一朗さんに、お父様とお母様にだけはお知らせしましょうとお話しましたが、雄一朗さんはうんうん判った、そのうち話しとくよ。と言っていたので私ももう既にお話されていたものばかりと…」
   奈津実、涙ぐむ。
   徳治朗、登紀子、俯いて聞いている。
奈津実「このあと、雄一朗さんのお墓にいってご挨拶とご報告をしようと思っています。
そしたら直ぐに大阪に戻ります。その前に、ひとつだけお願いがあります」
   皆、顔を上げる。
作品名:徳冶朗と亜理須 作家名:根岸 郁男