徳冶朗と亜理須
ドライブレコーダーを再生して、遠山、徳冶朗、亜理須がモニターを囲むようにしてみている。
執拗に追い越し、割り込み、急ブレーキを繰り返し煽り運転をしている映像
徳冶朗「煽り運転か」
見ていた亜理須がキャと口を手で塞ぐ。本線用LED道路照明機に衝突する瞬間の映像。
遠山「このあとです」
サングラス、マスク、ニット帽の男性が破損したフロントガラスの前に来て覗き込んでいる。
遠山「被害者の状態を確認しているんですね。助かるか、助からないか。このときはまだ心臓は動いていたので直ぐに救急車を呼んで貰えれば助かっていた可能性もあります。相手の車のナンバーも映っていますが何分この土砂降の雨で画像が乱れて確認できない状況ですが警察の威信をかけても探し出しますので待っていてください。追って何か新しい情報がわかり次第、ご連絡さしあげます。今日はゆっくり休んでください。明日早いんでしょう?」
○ 葬儀会館 (通夜式) 翌日
祭壇の中央に飾られた遺影写真。(亜理須が作成しだ画像を大きく引き伸ばした遺影写真)
祭壇の前で焼香する会葬者。
徳冶朗、登紀子、静香が祭壇の袖で会葬者を迎えている。
少し離れて亜理須と司会者いる。
五十八(徳冶朗の弟)が遺族席側に座っている。
焼香を済ませた皹野と山村が徳冶朗の前に来て、会釈する。
徳冶朗「この度は遠いところわざわざご足労いただいてありがとうございます」
と、皹野と山村に言う
徳冶朗「(登紀子に)雄一郎の会社の人たちだ。遺品整理業者に依頼していただいてわざわざ届けて頂いた」
登紀子。静香、頭を下げる。
亜理須、皹野と山村を見る。
亜理須、皹野と山村が席に向かうのを見届けると登紀子と静香に遺族席に座るように促す。
司会者「喪主の挨拶を承りたいと思います」
亜理須、立ち尽くす徳冶朗にマイクを近づける
徳冶朗「本日はご多用にもかかわらず、故人の為にお通夜の焼香を賜り誠にありがとうございます。息子雄一朗は地元の大学を卒業すると、山登りが趣味だったので趣味を活かせる会社を選び地元の山登り関係の仕事に就いていましたが、一年で本社のある大阪に転勤になりました。お盆とお正月には電話があるのですが、私が山登りばかりしないで彼女でも探せというと、いつもの口癖が良いお嫁さんを貰ったら必ず二人で帰るからね、でした。がこの約束は守られることはありません。……二人で帰るどころかこの度は無言の帰宅となってしまいました。」
俯いて徳冶朗の話をきいている弔問客達。
徳冶朗「雄一朗の死因は交通事故でした。病院へ担ぎ込まれた時点ではまだ心臓が動いていたそうです。発見がもう少し早ければ助かっていたかも知れません、と医師が言っていました。結局、雄一郎は虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)で死亡しました。大阪府池田市交通課の話によりますと搭載されているドライブレコーダーの映像分析をしますと犯罪性がある、とのことでした。しかし当日の悪天候により犯人の手がかりになるような証拠や判断材料が何一つ発見されてない、とのこと。しかし強調して約束されました。警察の威信にかけても必ず探し出す、と。(暫し沈黙)それは警察の方にお任せするとして明日は雄一朗と最後のお別れの日となります。今日は別室にささやかではございますが粗茶などを用意してありますのでお召し上がりながら、故人の在りし日のことなどお聞かせいただけたらと存じます。今日は本当にありがとうございました」
弔問客にお礼する徳冶朗。
○ 池田市内 産婦人科 待合室
数名の女性たちが順番を待っている。ドアが開いて看護士が名前を呼ぶ
看護士「朋坂さーん。朋坂奈津実さん、どうぞお入りくださーい」
朋坂 奈津実(26)、少しせりでたお腹をさすりながら診察室に入る
○ 池田市内 産婦人科 診察室
超音波写真を前に穂積医師と朋坂奈津実(26)。穂積医師がエコー写真の一部を指し
穂積医師「胎児の太ももの辺りにピーナッツのような突起物が確認できますので男の子だと思いますよ。おめでとうございます。
奈津実「間違いないですか」
穂積医師「今五ヶ月目に入りましたのでもう少し、二十四週目あたりになりますともっとはっきり性別がわかりますよ」
奈津実「二十四週目といいますと、妊娠七カ月目ですかぁ」
穂積医師「そうですが、早く知りたいですか」
奈津実「(少し微笑んで)知らせたい人がいるんです」
○ 徳冶朗の家 居間
徳冶朗が少し大きめのカレンダーの前に立ってじっとみている。
徳冶朗「(登紀子に)はやいものだなぁ、来週の日曜日で丁度、雄一朗の四十九日だ」
食卓テーブルに座りお茶を啜っている戸紀子
登紀子「そうねぇ」
登紀子、少し離れた隣の部屋に設置してある仏壇の上におかれた雄一朗の小さめの仏壇用写真目を向ける。
登紀子「夢でもいいので雄一朗から、母さん元気か嫁さんみつけたよって電話こないかねぇ」
徳冶朗「無理だろ、ばかだなぁ」
突然、電話が鳴る。徳冶朗、登紀子、驚、電話機の方をみる。
徳冶朗「電話だ、出ろ」
登紀子「いやだわ、私、」
徳冶朗、受話器を上げる
徳冶朗「はい、もしもし磐田です」
亜理須「(声)もしもし、亜理須です。森野亜理須です。こんにちは、今お電話大丈夫ですかぁ」
徳冶朗「(少し呆気にとられて)あー、大丈夫、大丈夫。……はい、はーい。判りました。では待ってます」
徳冶朗、受話器を切り、
徳冶朗「森野亜理須さんだったよ。あーびっくりした。おまえが変なこというからだよ。
雄一朗の四十九日の件で今から来るって」
登紀子「私だってびっくりしたわよ。まぁ座ってお茶でもどうぞ」
徳冶朗、椅子を引いて座ろうとする。
電話、再び鳴る。徳冶朗、登紀子を見る。登紀子、手のひらで、どうぞという仕草。
徳冶朗「はいもしもし、磐田です」
奈津実「私、朋坂奈津実と申します。突然お電話差し上げて申し訳ありません。この度は雄一朗さんの通夜、及び葬式に出席できなくて本当にすんません。最近体調が悪くで。でも四十九日には必ず伺いますので。もう一度雄一朗さんにあって報告することがあるんです」
徳冶朗「何を報告されるんですか」
奈津実「赤ちゃんです。聞いてください、男の子ですって。おじいちゃんのお孫さんですよ」
徳冶朗「え?」
登紀子、自然でないリアクションに徳冶朗の方を見ている。
徳冶朗「奈津実さん、といいましたか。奈津実さんと雄一郎とはどういう関係で…」
奈津実「(少し沈黙)婚約者です。何も聞いていないんですか。もう、雄一朗さんたら……どうしてくれるのよ。わたしの立場ないじゃん」
徳冶朗「もしもし」
奈津実「すみません、少し取り乱しちゃって。私、雄一朗さんの子供を身篭っているんです。もう五ヶ月目になるというのに雄一朗さん、親御さんに何もお話してくださらなかったのね。私どうしたらいいの…。これから私一人で育てていかなくちゃならいのに誰にも祝福してもらえない、誰からも支援がないなんて悲しすぎるわ」