オヤジ達の白球 51話~55話
「呑んべェ軍団のソフトボールチームだ。
メンバーはだいたい揃った。だが4番を打てる強打者と、正式な捕手がいない。
そこでその昔、名門高校のソフトボール部を苦しめたお前さんに、
白羽の矢を立てたというわけだ」
「4番なら柊さんで十分でしょう?」
「それがな。俺は今、足裏のを痛めて治療中の身だ。
いい投手はいる。だがそいつの球を、上手に取れる捕手が居ねぇ。
おまえさんはうってつけだ。
どうだ。そういうわけだ。こいつのところのチームへ入ってくれねぇか」
「大先輩からの頼みではイヤとは言えませんねぇ。立場上・・・」
日に焼けた顔に笑顔が浮かぶ。
「監督さん。ウチのキュウリ食べます?。スコアラーさんも1本どうですか」
男の指が、20㌢ほどに育ったキュウリをもぎり取る。
祐介と陽子の前へ「どうぞ」と差し出す。
スーパーで見るような、緑色に輝いたキュウリではない。
表面に白い粉がういている。
カビや農薬ではない。
熟した野菜や果物の表面によくみられる、ブルームという粉上のろう物質だ。
人体にはまったくの無害。そのまま食べても何の問題もない。
「そのまま口にして安全です。ウチは農薬を使っていません。
俺の顔をたてて絶対に農薬を使うなよと、先輩からくどく
言われていますから。
そのせいで他所から比べると、収穫が2割ほど落ちますけどね」
あははと男が白い歯を見せて、うれしそうに笑う。
(53)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 51話~55話 作家名:落合順平