オヤジ達の白球 46話~50話
「おう。うまくいったな。あのバント作戦は」
「バットを放り投げるという、とびっきりの演技までつきましたからねぇ。
たいていの内野手が、あれだけで完璧にびびります」
「同点のランナーを出したところで俺がサヨナラホームランを打つ。
そういう筋書きでバッタボックスへ立ったんだが、どうやら、
そうかんたんには打たせてくれないようだな」
「いえいえ、打ってください。
俺もこの目で見たいです。伝説のバッターの特大のホームランを」
捕手の言葉と裏腹に、4球目は内角ぎりぎりを狙ったドロップがやってきた。
ひざの高さから落ちた球は、ストライクゾーンをきわどくはずれた。
「ボール・ツウ!」
この投手は、いろいろ変化球を投げることができるようだ。
つづく5球目。こんどは外へ逃げていく、スライダーがやって来た。
「ボール・スリー!。ストライク・ツウのフルカウントです」
球審の千佳の声も、こころもちうわずってきた。
打者と投手の対決をまるでギャラリーのひとりのように、いつのまにか
楽しんでいる。
「わくわくします。次の1球に。
あら。失礼。でも、球審の仕事を忘れているわけではありません。
わたしも伝説のホームランバッターのことは、事務局長から
聞かされています。
楽しみですねぇ、つぎの1球が」
うふふと千佳がまぶしく笑う。
わくわくしているのは千佳だけではない。
3塁で塁審をつとめている事務局長も、さきほどから腕組をしたまま、
立場を忘れて2人の対決にこころを奪われている。
(47)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 46話~50話 作家名:落合順平